どうしてああなの
「時穏って、何なの?」
「え?何?俺の妹が世話になったのか?」
「いつも俺らが世話してるわ。」
3年5組の教室に戻った黒尾が発した言葉は、目の前の席に座ってジュースを飲む時穏の兄、結葵の姿にだった。
振り返った結葵はきょとんと首を傾げる。
その隣にいた夜久が聞いていたらしく呆れた顔をしてさらには溜め息をついた。
結葵は「あいつお前らに懐いてんもんなぁ…気に食わねぇけど。」と夜久を睨んだ。
「アイツは俺を困らせて何をしようとしてんだ?」
「…黒尾、何かあったのか?」
兄の結葵は黒尾の発言に体の向きを変えた。
「コイツ、今時穏に絶賛無視られ中だからな。」
「え、なんで?」
「それを聞きに行ってきた。」
「お。で?聞けたのか?」
夜久と結葵の視線を受けながら、黒尾は頭を抱える。
「もうそういう問題じゃねぇんだよ榎本くんよ…」
「え?何何?とうとう告られたのか?」
おふざけ半分に結葵が黒尾に詰め寄る。
頭を抱え、不機嫌な黒尾は「…は?」と結葵を睨んだ。
しかし彼は怖気づくどころか笑顔を向けて「嘘じゃん。じょーだん!」と黒尾の肩を叩いた。
しかし、黒尾は溜め息を盛大についた。
「いや、それシャレにならねぇんだわ、たぶん。」
「え?」
結葵と夜久の動きがピタリと止まった。
―私は、毎日先輩のことで頭いっぱいです。―
「…もうそれ告白だろう。」
「時穏…何かあったのかな?突然過ぎねぇか?」
夜久と結葵の言葉に黒尾は窓の外を見て、先ほどの光景を思い出していた。
俯く彼女に、『おい、聞いてんのか?』と顔を覗き込んだ。
慌てて顔を背けた時穏。
しかし、一瞬見ただけでもわかるほどに彼女の顔は赤かった。
『…なぁ、時穏。聞きたいことがあんだけどさ…』
『?』
チラッと視線を向けた時穏。
俺はあの時、何を聞こうとした?
時穏の態度があまりにも…いや、勘違いかもしれねぇ。そう思って、思いとどまった。
でも…
『黒尾先輩。』
『…?』
どうした?と問いかけようとした時、時穏のブレザーを握る手に力が入ったのがわかり、口を閉じた。
時穏の口が動く。
『私は、毎日先輩のことで頭いっぱいです。』
思い出して、頭を抱える。
あの時、一瞬でも抱きしめたくなった感情に戸惑った。
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