お話します
「お話、します。」
「いや、話すのは当たり前な。…いつからいた?」
「初めからです。」
教室を出てから前を歩く黒尾の背についていく。
どこへ向かっているのかわからないが、おそらくこの道は部室行きだろう。
「姿現すならはじめっから見せとけ。」
「…研磨に悪いことしたな、と思ってます。」
「?研磨?」
そこ俺じゃねぇのかよ、と思った黒尾は振り返り彼女を見た。
俯き気味に歩いていた時穏は顔を上げ、「研磨に“私はいないってことにして”ってお願いしたんです。」と申し訳なさそうに言う。
なるほどな、と思った黒尾はふっと笑った。
「それで研磨おかしかったのか。」
「…はい。」
やはり、着いた先は部室だった。
部室のカギを取り出し、開けた黒尾。
その後をついて入った。
「じゃあそこ座れ。」
「…う…。」
「怒ってねぇから早く座れ。」
怒られる、そう思い気まずそうに恐る恐る着いてきた時穏だったが、黒尾が“怒ってない”と言ったことでほっと胸を撫でおろした。しかし…
「じゃあ、話してもらうか。なんで俺を避ける?」
「お、怒ってるじゃないですか!」
眉間に皺を寄せて腕を組む黒尾を目の前に、身を縮める時穏。
「そりゃお前…理由もなしに避けられ続けてたら怒りたくもなるだろうが。」
いつもの声のトーンで話す黒尾。
時穏はスカートをぎゅっと握りしめた。
「その…どう思ったのかな、と思いまして…」
「どうって?」
「…っ…抱き着いたことです。」
もう言ってしまえ。と思った時穏は意を決したように目をぎゅっと瞑って言葉を放った。
しん、と静まり返る部室。
外では生徒が行き来している様子で、声が多少聞こえてくる。
思考をそちらへ向けて黒尾を意識しないようにしていた時穏。
それを気づいてか、たまたまなのか…黒尾が静かに名前を呼んだ。
「時穏。」
びくりと体に緊張を走らせたのが、見て取れる。
ピンと背筋を伸ばした彼女は「はい。」と黒尾を真っすぐ見た。
「お前は、どういう理由で抱き着いたのかは知らねぇけど…俺はお前が“お礼だ”って言ったからそう捉えてる。」
「あ、はい…」
よかった。
「って、言うと思うか?」
「へ…」
ガタリと立ち上がる黒尾。
その姿を見上げる時穏の目に移った彼は、目を見張るものだった。
「黒尾、せんぱい?」
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