逃避
「おーい。時穏いるかー。」
「!!」
2年3組の教室に、突然姿を現した黒尾。
いつも通り研磨の前に行って喋っていた時穏だったが、何かを察知したかのように黒尾が現れるより前にクラスメイトが数人集まっている集団の影に身を隠す。
研磨はその一瞬に目を少し見開いた。
「研磨。時穏は?」
「…。」
教室には入ろうとせず、扉に手を掛け研磨に問いかける黒尾。
研磨はチラッと身を隠している時穏に視線を向けた。
彼女は首をブンブン大きく左右に振り、終いには両手で×をつくった。
溜め息をつきそうになりながら、黒尾に視線を戻すと「いないらしい。」と曖昧な返事をした研磨。
時穏は心の中で「ちょっと!研磨!いないらしいって何だ!」と叫ぶ。
黒尾は「なーんか俺避けられてない?」と苦笑いする。
研磨は再びチラッと時穏を見る。
時穏は研磨に再び首をブンブンと左右に振る。
「それはないって言ってる。…言ってた。」
「…なんかお前さっきから言葉がおかしくねぇか?」
怪しむ黒尾。
時穏は「研磨のばかーっ」と心の中で叫びながら顔を両手で隠す。
「…ちょっと、眠たいかも。」
「…ぶふっ」
時穏はあまりに酷い言い訳に込み上げた笑いを必死に抑えた。
ジロッと彼女を睨む研磨。
ハッとした時穏はペコリと頭を下げた。
「まーた夜遅くまでゲームしてたんだろ。」
「うん。…ってか、クロ、時穏に何か用事?」
「!!」
研磨が黒尾に投げかけた問いかけに、時穏は親指を立てたくなった。
黒尾は「あー…」と髪を掻くと
「いや、避けられてるから、面と向かって訳を聞き出そうと思ってな。」
と言う。
「ふーん。」と興味なさそうに返事する研磨とは裏腹に、時穏は身をゾクリと震わせた。
恐怖からくるものだった。
「…っ黒尾先輩!」
「!!はっ?!時穏?!」
これ以上怒らせてはいけないと思った時穏は、すべて、今すぐに話してしまおうと思い、立ち上がって右手を挙げた。
黒尾はギョッとする。
いないはずの彼女の姿が、あるではないか。
研磨は「おれの努力…水の泡。」とゲームを始めた。
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