破壊力
「えっと…どうゆう状況だ?コレ。」
ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めると、顔を上げてニッと笑った時穏。
「お礼です!」
「…え。」
そっと腕を解くと、「じゃ、お先に失礼します。」とペコッと頭を下げその場を去る時穏。
心臓はバクバク。
抱きついた感覚を思い出して顔を真っ赤にする。
「…抱き着いちゃった…。」
「お、お礼でもなかったらしないけど!」と自分に言い聞かせながら部室に戻るも、胸がぎゅっと締め付けられたような感じがずっとしている。
「…好きです、先輩。」
そっと呟いた言葉は、静まり返った更衣室に消えた。
一方、抱きしめられた黒尾は準備室で固まっていた。
えっと…?
お礼でハグしろ、って言ったのは俺。
抱きついて欲しいと思ってたのも俺。
のくせに…
「…ふっ…なんだ。俺にもできんじゃねぇの。」
思ってた以上の破壊力だ。
「夜久の奴、いつもこんなの耐えてんのか?…女として見てねぇのか。」
女の方から抱きしめられたことなんて、初めてだった。
予想外のことをされて、正直戸惑っている。
いや、ずっといつかは…って考えてたけどさ…まさか、ここまで早くこんな展開になるとは考えてねぇだろ?
体育館の電気を消し、出入り口に向かっていく黒尾。
「やってくれんなぁ…時穏。」
手の甲で口元を隠すと、必死に顔の熱を下げようとした。
[ 10 / 80 ]
prev | list | next
しおりを挟む