Love Game[完結] | ナノ

いいんじゃない


「…。」

「?時穏。」

「…。」

「時穏ってば。」

「ねぇ、研磨。」

「!!な、なに。」


ぼーっとしている時穏に一生懸命話しかける研磨が一歩近づいた瞬間、時穏の手が研磨の腕をガシッと掴んだ。
驚いた研磨はビクッとして無意識に彼女から身を引いた。


「私、黒尾先輩に抱き着いてみようと思う。」

「…あ、そう。」


研磨は内心、そんなことか、と思った。
今はとりあえず、そこをどいてほしいと言いたい。


「え?驚かないの?」

「やっと立ってくれた…今、それどころじゃない。」


そう言って細い腕で今まで時穏が座っていたベンチを抱える研磨。


「あ、手伝う!」

「…じゃあこっち持って。」


冷たい研磨の視線とともに、ベンチの端を向けられた時穏はそこを掴んだ。


「…何で突然決断に至ったの。」


とぼとぼと準備室へ運ぶ道中、研磨が先ほどの彼女の言葉を思い出して問いかけた。
時穏はヘラッと笑う。


「さっきね、黒尾先輩に“礼ならハグがいい”って言われたのを聞いて…研磨の言葉思い出してね…」

「あぁ。お昼休みに言ったやつ。」

「うん。じゃあ、一度くらいならいいのかも。と思いました。」

「うん。よくわからないけど、いいんじゃない。」


冷たい研磨に食って掛かる時穏の姿を見ていた夜久が黒尾に「アイツら仲いいよな。」と笑う。

黒尾も口角を上げて「さすがマネージャーだな。」と二人を微笑ましく見ていた。



「お疲れさまでしたぁ!」

「「したぁ!」」



片付けを終え、体育館の端で夜久と話をしている黒尾の姿を見つけ、どうしようかと悩む。


夜久先輩にはいつも抱きついてるし…でもなんか人の目があるとやりにくい…
ましてや黒尾先輩だし、ドキドキしてる…。


なんて戸惑っていると「時穏ーはやく出ろー。」と黒尾に言われた。
夜久がニッと笑うと体育館を出ていく。

時穏は「はーい。」と返事をして、黒尾の背を追った。


準備室の明かりを消した黒尾の姿を扉からのぞき込むように見ていた時穏は、「黒尾先輩。」と声をかけるとそのまま彼に抱き着いた。

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