赤いリボンの猫-続編-[完結] | ナノ

モテ期なの?


「な、何でもないです!黒尾先輩のせいとかじゃないので!」


精一杯の笑顔を見せた後、準備をしに部員達とは逆へ向かう名前。


「…はぁ。」

「なんのため息?」


遅くなった。と遅れてやってきた研磨は何も知らず靴紐を結ぶ。
その肩を掴む黒尾。
結んでいた靴紐が反動で手から落ちていく。


「な、なに。」

「悪い。彼女、泣かせた。」


どんより黒いオーラを漂わせている黒尾の姿に、眉間に皺を寄せる研磨。


「名前が?何言ったの…」

「いや、きょう告られたって話聞いたからあんま顔広めんなよって…注意半分に…」

「名前、どこ?」


あっち、と別の準備室を指さす黒尾。
「…たぶん、それだけじゃないと思うけど…」とだけ言って研磨はそのままそちらへ向かって行った。


準備室の扉が僅かに空いていた。
そこから、そっと扉を開く研磨。

立ち尽くして、動かない彼女にそっと声をかけた。


「名前。」


驚いた彼女の手からバインダーが落ちた。
勢い良く振り向いた名前はヘラっと笑う。


「あっはは…びっくりした。」


そのバインダーを拾う手が少し震えているのがわかった。


「名前、今モテ期なの?」


代わりにそのバインダーを拾う研磨。
手渡されたそれを見て、込み上げてくる。


「っ…」


ぎゅっと目の前の研磨に抱きつく。


「…前にも、あったけど。名前、言わないから…。」


その言葉に、研磨にも思い当たる節があるという意味が込められていることに、名前は気づいている。




事の発端は二週間前。
いつものように休み時間を過ごしていた名前の目に飛び込んできた衝撃的な光景。


研磨が、女の子と話してる。


嫌そうな顔一つせず、普通の顔をして話を聞いている研磨を見て、悲しくなった。


好きなんだから、独占だってしたいし
恋人には、ヤキモチなんて付き物だ。
研磨は、私のこと好きだって…わかってる。


思うことは簡単だった。
でも、実際、彼はあまり口では伝えてはくれない。

好き?って問いかければ、うん、と答えてくれる程度。
それで、自分は大丈夫だと思い込んでた。

限界は、自分の行動が表している。


「好きって聞く時点で…ぎりぎりつなぎ止めていた程度だったのかも。」


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