赤いリボンの猫-続編-[完結] | ナノ

はじめて


「研磨に、押し倒される夢を…」

「…普通。」

「いやっちょっと違うのっ!…いや、違うことないです。」


しまった、自ら墓穴を掘ってしまった。と顔を隠したまま焦る名前。

そこまで言った言葉を、聞き流すわけもない。


「どう、違ったの?」


研磨は落ち着いたトーンで、いつもと変わらない様子を見せる。
それが、名前は少し悔しかった。


「研磨が、私の甘い声が好きだって言った。」

「へぇ…」

「だから…私、欲求不満なのか…と…」


顔から手を退けられ、そのまま視線が重なる。


「…ねぇ、研磨。」

「なに?」

「研磨から見た私、どんな風に見える?」


その問いかけに、研磨は唇が重なる寸前に答えてくれた。


「緊張してるように見える。」


口元が思わず緩んだ。
でも、お互い様だと思うんだよね。


いつも、何度も重ねない唇だからとても多く感じた。
重ねる毎に、どこか距離のある相手と近くなってく気がした。

初めて、肌に触れた。
ぎこちなく動く手に、安心した。


「おれでいいの?」って、聞かれるんじゃないかと思ってたけど、そんなことなかった。

すっかり、前の研磨じゃなくなってた。


それが何より、ドキドキした。


肩を上下する目の前の研磨に手を伸ばした名前。
髪から除く瞳に捕えられ「なに?」と静かに問いかけられる。


「…研磨…」


伸ばした手を握られ、影が落ちた。
いつもと違う、喰われるようなキス。

荒い息遣いと共に身を少し起こした研磨の手に名前の髪が握られていた。


「名前、髪伸びたよね。」

「そういえば、切ってない…研磨と出会ってから。」


そう言った時、研磨が言ったんだ。


「まだ切ったらダメ。」って。


何で?って、その時問いかけたけど、研磨は答えてくれなかった。


でも、後々考えてみると…
たぶんアレは、あの時思った感情を言葉にしただけ。


「やっと手に入れたから、まだダメ。」






「そういう意味でしょ?」


夢でチョコは嫌いだと言われた名前が、結局バレンタインに作ったものは研磨の大好物アップルパイ。

林檎が、ふんだんに使われたそれを無言で食べる研磨に問いかける名前。

彼はふいっと顔を背けた。


「その話はしないで。」

「…まさか、現実逃避…?」


ガーン、とショックを受ける名前。
面倒くさいな、と表情に出す研磨は、一口サイズのアップルパイを刺したフォークを名前に向けた。


「…恥ずかしいから、やめて。」


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