応援団
翌日、学校はみながバタバタしていた。
それもそのはず、体育祭と文化祭が僅か1週間の差で行われるこの時期。
文化祭にも力を入れなければいけないが、体育祭にももちろん力を入れていた。
「苗字ー。」
「…望月。」
休み時間、同じクラスの望月に手招きされた名前。
その周りには親しい心と結羽がいた。
歩み寄ると、「ねぇねぇ名前もするでしょ?」と何かのお誘いを受ける。
「え?何を?」
「応援団だよ。」
「応援団?」
望月の言葉に眉間に皺を寄せる。
その皺は、嫌というものではなく、悩みのものだ。
2年生から参加できる応援団は、演技がかなりの見物でみな放課後みっちり練習をこなす。
しかし、それはバレー部だって同じだ。
インハイ予選で負け、3年生にとって最後の春高は絶対全国に行くと頑張っている真っ只中である。
そんな中、抜けることなんてできるわけがなかった。
「ごめん、ダメだ…。」
心が「バレー部忙しいもんね。」とフォローを入れてくれた。
「うん…予選まであと少ししかないから…放課後はできる限り部活出たいと思ってて…ごめんね。」
「じゃあ、委員会は?文化祭の。」
「あれは仕方ないじゃん。誰も手上げなかったし、井上決まるまで帰らせる気なかったし…」
早く部活に行きたいがゆえに、名前が手を挙げて立候補したのだ。
そのおかげで、部活は最後に少ししか行くことができなかったが、みんなが助かったことだろう。
心は望月に「望月だって手、あげなかったじゃん。」と嫌味を含めた表情で言う。
望月は「わーかったよ。」と言うと名前を見て謝った。
「悪いな…」
「ううん…私のほうこそ、ごめんなさい。誘ってくれたのに…。」
しゅんと、落ち込んでしまった名前に何か声をかけようとした望月だったが、教室に聞きなれない声が聞こえた。
「苗字いるかー?」
よく来る先輩のものとは違っているが、大きい声にクラスメイトたちが視線を一斉に彼へ向ける。
名前にとっては救いの声だった。
「はい!います!」
「お、いた。」
ニッと笑う夜久の表情にホッとした名前はすぐさま廊下へ出た。
その表情一つ一つを見ていた望月はムスっとする。
「顔に出すぎじゃん、望月ー。」
「うるせ。」
「ただの先輩だよ?」
「わかってるけど…なんか、あんな顔みたら、いいところにいんだろうなって思うよ。」
心と結羽は望月の言葉に、黙り込む。
二人とも、痛いほど彼の気持ちをわかっていた。
ただ、そこまで知らないのは本人だけだ。
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