クロのせい
東京都内、某所。
朝早く、静かな路地を研磨は歩きながら通り過ぎていく。
視線は手にしているゲーム画面。
赤いジャージを来て、秋の風を感じながら向かう先は学校だ。
サッと流れる風が彼の金色の髪を揺らす。
視界が自分の髪によって遮られた一瞬で、ゲーム画面には-GAME OVER-の文字。
「…はぁ…」
もう一度、向かい来る敵に、負けじと向かう。
歩みを止めてそれに集中する。
あと少し…そう思った時だった。
視界の端を、黒い何かが通って行く。
そちらに視線を泳がせれば、ブルーアイの双眼が研磨の姿を映していた。
“君と同じクロって人もおれを邪魔するんだけど…”と目で訴える研磨。
首には自分が着ているジャージの色と同じ真っ赤なリボンが巻かれている。
タッと路地裏へ消えて行ったその猫に、はぁとため息をつく。
再び視線をゲーム画面に戻せば、また-GAME OVER-の文字だ。
…次、いつ会えるんだろう…。
もう絶対二人っきりで会う。
意気込んで、指を動かす。
今回はいけそうだ。と手応えを感じ、再び歩みを止めて集中する。
「よぉ、研磨。ん?どうした?」
「…。」
しかし、突然、背後からバシッと背中を叩かれたことに驚いて手元が狂った。
ハッとした時にはもう遅い。
ゲーム画面にはもう何度見たかわからない-GAME OVER-の文字だ。
ジッと画面を見て、固まる研磨の様子を不思議に思った黒尾がゲーム画面を覗き込む。
「なんだ?負けたのか?」
「…クロのせいだ…」
「え?何?俺のせい?」
研磨はため息をつく間もなく、ゲームの電源を切り歩み始める。
その後を追う黒尾は頭に?を浮かべながらも、顔が引き攣っている。
研磨の負のオーラがそうさせていた。
「け、研磨。すまなかった。」
黒尾の謝罪に、研磨は「…もう、いいよ。」それだけ言って部室へ入る。
きのう…せっかく…。と思い返せば、気が重くなるのを感じた。
「研磨さん!おはざーす!」
「おはよ。」
朝から元気なリエーフにそう言うとバッグを置いて着替えに入る研磨。
その後入って来た黒尾に向かっても元気に挨拶したリエーフだったが黒尾の様子がおかしいことに気付いた部員が研磨と黒尾を交互に見た。
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