赤いリボンの猫-続編-[完結] | ナノ

出会ってから今までに


テーブルに項垂れる名前。
静かな空間にうとうとし始める。


あー…眠たくなってきた。


もぞもぞと寝る体制を整える名前を見た研磨が「名前、寝る?」と問いかける。
「寝ない。」と口ではハッキリとしているものの、脳内は睡魔に襲われている状況だった。

研磨もそれ以上聞かず手元のゲーム画面に視線をやる。
黒尾は眠る名前の姿を見てふっと口角を上げた。




「研磨さー、名前と付き合ってから変わったよな。」

「何。突然。」


外が薄暗くなりつつある頃、黒尾が携帯を片手に隣に座る研磨に話しかけた。
相変わらずゲームをしていた研磨だったが、彼も黒尾の話に視線を上げる。


「いや?突然じゃねぇよ。ただ…最近特に思うことがあって…。」


黒尾の最近には、以前に行われた合宿のことが含まれていた。
研磨はゲーム画面に視線を落とし「それは、おれも。」と呟く程度に同意を示す。


「…前のお前ならそこは“そうかな。”とかはぐらかすところだろ。」

「…素直に言わないと、いけない人が傍にいるから。」


“信じて貰ってるからって、安心してたらいなくなる”と話す研磨から、目の前で相変わらず眠っている名前に視線を移した黒尾。


「名前の、どこがお前をそうさせてんの?」


僅かに研磨の顔が動く。
同時に髪が揺れる。


「…それは、名前のどこを好きかってことでいいの?」

「んーまぁそうだな。それにその意味があるなら。」


手の動きを止めた研磨。
相変わらず、ゲーム画面に視線は落としたままだが、操作は中断している。

考えていることがわかった。

何かの合図かのように、また僅かに研磨の髪が揺れる。


「…おれを好きでいてくれてるってとこが、一番強いかも。」


ゲーム機の○ボタンを親指で押すと、画面が変わる。
研磨の視線がそっと上がって寝ている彼女に向けられた。


「名前は、物好きでしょ?おれなんかを好きだって言ってくれて…。名前と会ってからも相変わらず逃げて来たことも…結局向き合わなきゃ、名前は許してくれなかった。」


“それがめんどくさくて…じゃあ、何でも名前には言った方が早いってわかった。”と話しながら、黒尾を見上げた研磨。


「素直に言わないと、名前だけ素直に言わせておいたら…離れていきそうだと思ったし…。」

「…“こんな俺を好きになってくれた人は、初めてだから離したくない”って?」

「それもあるけど…」


ゲーム機の電源を落とした研磨がふと手を見た。


「大切だと思える人なんて、めんどくさそうって思ってた。自分でも驚いたんだよ。名前に好きって言った時…大切な人って、めんどくさいとか思わないんだなって。」


それを知ったのは、名前のおかげ。と柔らかく口角を上げた研磨に、黒尾は手を伸ばした。

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