赤いリボンの猫-続編-[完結] | ナノ

客寄せ役


「いいか、名前。お前は、俺たちが推薦したメイドとして…客寄せ役をしてもらう。」


黒尾に言われ、どんどん顔を引き攣らせていく名前をよそに、部員たちは「メイド服の名前さんなら、お客さんいっぱい来ること間違いなしっすね!」「メイド服!絶対似合う!」などと口々に話し出す。

はぁ、と溜め息をついた研磨に気付いたかのように、夜久が「でもさー」と口を開いた。


「他校からも来るんだぜ?今までの練習試合とか合宿とか思い出してみろよ…」



そう言われた部員たちは、可愛いマネージャーのありがたい労働姿を浮かべて「ありがとうございます!いつも!」とお礼を言い出す始末…。


「えぇ…」と戸惑いを見せる名前の前に「ちげぇよ!」と立ちはだかる夜久に部員たちの視線が向けられ「ん?」と首を傾げる。

黒尾がぼそりと呟く。



「まぁ…手、焼いたからな。」

「だろ?!そこ重要だろっ」

「確かに…うちの大事なマネージャーを野放しにできるほど俺たちはいい子ではねぇな。」



黒尾の言葉に、「…もうめんどくせぇからあえてつっこまねぇけどさ…」と夜久は呆れきった表情をする。
研磨も「面倒くさい…帰りたい。」とその場に座り込んだ。



「そこんとこはしっかり考えておかねぇと…客寄せどころじゃなくなるぜ?」

「夜久先輩、客寄せくらいできますから…」

「…。」

「う…。」



夜久の無言の圧力、“お前は黙ってろ”とでも言われているようだった。
名前は「すみません。」と研磨の隣に腰を落とした。



「まぁ…外に行くときは誰か付き添えばいい話だろ?教室だと数人いるしな。」

「うん、考えてんなら俺からは何もねぇよ?」



ニッコリと笑う夜久に、1年生たちが少しばかり恐怖を抱いていた。
その表情を見た2年生たちがわからなくもない…と思っていた。



「んじゃあ、今年は“喫茶”ってことで。」



各々が返事をするのを聞いてから、黒尾が視線を落とした先には研磨がいた。

あまり乗り気ではない彼のことを考えてか、周りに聞こえない程度に声をかける。



「彼女が客寄せに使われることに、不満か?」



研磨は眉間に皺を寄せて「なに、その言い方。」と視線を黒尾から真逆に逸らす。



「そう思うなら、しなきゃいいじゃん。」

「うーん…じゃあ、研磨がメイド服着るか?」

「…。」



メイド服を着ないようにすればいいという話をしたつもりだったが、黒尾には伝わっていなかったようでため息をつく研磨。

彼らにとって、どうしてもメイド服だけは離せないもののようだ。


不機嫌な研磨に黒尾がそっと耳打ちをした。



「お前だって見てみたいだろ?メイド服姿。」

「…別に。」

「今の間はなにかなー?」

「うるさい…嫌い。」

「はっ…嫌いっていったな?今。」



黒尾と仲良く話している研磨の姿を見ながら名前はあまりできなかったマネージャーの仕事を進めていた。



メイド服…。



彼らは勝手に進めているが、自分の意見も聞いてほしかった気がしている名前。
しかし、一番気になるのは視線の先の研磨の気持ちだ。



どうでもいいのかもしれないな…。



ネガティブな気持ちになりながら、名前は遅れてきた理由と文化祭の出し物が決定したことを部誌に記していた。


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