赤いリボンの猫-続編-[完結] | ナノ

触れたくなる


「研磨ぁー」

「なに?」


名前のいない部活。
いつもいないときは、大体委員会など用事であって、最後はちゃんと姿があったが、きょうはそれもない。

部員たちもどこか暗い。

そんな中、主将の黒尾は普段通りの様子を見せていた。


「名前とキスしたんだって?」

「え。」


もしかして、名前、クロに言った?


あれほど言わないでいいって言ったのに…と眉間に皺を寄せる研磨は視線を逸らす。
黒尾がその表情を見てにやりと笑った。


「その顔はしたんだな?」

「…名前から聞いたんでしょ?」


確かめる必要ないじゃん。と言えば黒尾は「いや、何も聞いてねぇけど?」と首を傾げる。
研磨は黒尾を見ることなく心の中で「やられた。」と思った。


ニヤニヤした黒尾は「“つい”したのか?」と問いかけてくる。
研磨は目を伏せた。


「最近、おかしいんだよね。」

「?は?」

「おれ。」


視線を上げた先の黒尾の表情はキョトンとしていた。


「名前は気づいてそうで、気づいてないみたいだけど…」

「何に。」

「……名前に…」

「名前に?」


研磨は言い難そうに口を詰むぐ。


「…わかったぞ。」


黒尾が不敵に笑えば、研磨だけに聞こえる声で問いかける。


「触りたくなるんだろ?」

「…もっと違う言い方なかった?」


生々しい言い方で嫌な顔をする研磨に黒尾は「それ、普通だからな?」と言う。


「え?」

「研磨くんは初めてなのかもしれねぇけど…俺なんて好きになったら即行触る。」

「それ…言わなくていい。」

「え?今必要だっただろ。」


研磨はため息をついた。


「でも、変ではねぇから。それ、普通だからな。」


そう真剣な顔をして言われてしまえば、それを信じることしかできない。
よくよく考えてみれば、
どうして好きな人と結婚して子供ができるのかって考えてみる。
やっぱり、相手に触れたいって感情が湧かない限りそれは…ない。


…名前も、あの時、手…。


キスをしたとき、彼女の腕が背に回った感覚を思い出す。


名前も…触りたいとか思うのかな。


自分がそんなことを真剣に考えていることに驚き思考を遮断する。
気づけば、彼女のことばかり考えていた。

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