赤いリボンの猫-続編-[完結] | ナノ

ときめき


静かな誰もいない保健室。
カーテンの閉められたベッドの一角。

彼氏の背に手を回す名前の姿。


「あ。」


背に回った手によって身を離した研磨。
ボーっとしている彼女を見て、やってしまった。と思うと同時に、申し訳ない気持ちがこみ上げてくる。


「…ごめん。」

「え?」


目を見開いた名前。


「何で、謝るの?」

「…。」


黙り込む研磨を見て、一連を振り返ってみる。

何も、謝れることなんてしてない…けど…


ハッとした名前は重い体を勢いよく起こして俯く研磨の肩を掴んだ。
驚いた顔をする研磨に名前は尽かさず「ごめん!!」と謝る。


「え…なにが。」

「う…どうしよう…うち(音駒)のセッター研磨しかいないのに…」


「研磨に移っちゃったら黒尾先輩に怒られる…」と顔を真っ青にする彼女に、研磨は「別に…名前が謝ることじゃない。」と返す。


ムッとした名前は鞄の中から携帯を取り出し何やら打ち込み始めた。


「……何してるの。」

「黒尾先輩に先に謝っておこうと思って。」

「しなくていいから…」


呆れる研磨が手を伸ばせば、名前の手から抜き取られた携帯。
そしてそのまま寝るように促される。


「あ。そうだ。名前の連絡先教えて。」

「あ…そういえばずっと知らないままだね。」


毎日部活で会うため、必要だと思わなかった連絡先。


「研磨ってメールするの?」

「どういう意味?」


連絡先を打ち込む研磨を見ながら名前は「だって“めんどくさい”って言って読むだけで返事しなさそう。」と言う。


研磨は「うーん…返事はするけど…確かに面倒くさいかも。」と言えば、携帯を手渡される。


「黒尾先輩マメだよ。あの人絶対女慣れしてる。」

「うん。それは否定しない。」


そう返事をした研磨にふっと笑う名前。


「いつ帰るの?」

「えー…研磨が帰るまで。」

「え?今?」

「ううん、部活が終わるまで。」

「早く帰って。」


冷たく帰れと言われ不貞腐れる名前。


「そこトキメクとこじゃない?」

「おれにはあんまり…」

「じゃあ研磨は何にトキメクの?」


うーん…。と唸りながら立ち上がる研磨。


「…名前が、おれを好きってわかる瞬間。」


「とか。」とだけ言ってカーテンを開けた研磨。


「ちゃんと休んでよね。」

「はーい。」


保健室の扉が開かれて、足音が遠のいていくのを感じながら名前は掛布団を深くかぶる。


「好きってわかる瞬間…か。」

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