もう一層のこと…
「名前…」
「ん?」
いつにも増して、近い声。
二人きりの空間が久しぶりで心は踊っている。
「って…なんでにやにやしてるの?」
「ふふ…嬉しくて。」
「…熱出たこと?」
「それは嫌だけど…でも、熱出たことによって」
「研磨と二人っきりになれたなら…全然いい。」と柔らかく微笑む名前。
不意をつかれたとは、こういうことで…
熱を出ている彼女に余裕をかいていた研磨は顔を彼女から見えないように背けた。
「…名前は、何でも言うよね。最近は特に。」
その言葉に、ぼーっとする頭で名前は「そうだね。」とだけ答える。
「何で?」
しんどそうに眉を顰める彼女の顔を見つめて、問いかけてみる。
「…そんなの、研磨には言わないと伝わらないのわかってるから…」
言葉途切れ途切れに一生懸命答える名前。
そっと目を瞑って襲い続ける頭痛の緩和をはかる。
「…名前は、聞かなくても、わかるの?」
「…信じてる。」
「…へぇ。」
異様に、ドキドキする。
彼女の言葉は、ちゃんと普段の言葉なのだろうか。
熱に侵されて出ている嘘ではないのだろうか。
違うなら…。
研磨がそっと立ち上がれば、名前が薄っすら目を開けた。
「帰る?」
赤い頬、辛そうな表情。
もはや、彼女の言葉にどういう感情が含まれているのかすら読み取れない。
そっとベッドに腰かけた研磨。
身を少し寄せ、顔を覗き込めば、「名前…」と名前を呼ぶ。
ボーっとした頭でも、きゅんとした名前。
「…大好き。」
そう呟いたと同時に、目を瞑る彼女。
その瞬間を待っていたかのように、唇を重ねればパチッと開かれた目。
視線が至近距離で合う。
「おれも。」
それだけ言ってまた重なる。
わかってる。
頭ではわかってるけど、行動に移すのは難しい。
もう一層のこと…
熱のせいにしていいですか。
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