寝坊
それから数日後の朝、ガバリと起き上がった名前は携帯の通知画面を無視して時計を見る。
「…や、やばい!!」
寝坊だ。
初めてのことでとてもじゃないが焦る彼女。
部活だからもういいや、そのままジャージ着ていこう。
真っ赤なジャージでも今やどうでもいい。
早く行って仕事しなきゃっ
寝ぐせのついた髪はついたままとりあえず一つに纏め上げた。
昨夜準備していたバッグを持って家を飛び出す。
携帯を見れば朝練が今始まったばかりの時間。
画面にはズラッと並ぶ黒尾からの着信履歴。
絶体絶命のピンチッ
なんて大袈裟に思っていた名前。
「すみませんっ遅れました!」
ぜぇぜぇと肩で荒れた息を整えながら体育館を入る彼女の姿に黒尾は「珍しいな〜寝坊したのか?」といつもの様子を見せる。
きょとんとする名前に、不意に握られた手。
「え…え?」
「…。」
研磨の手が前髪を除けて額にぴったりとつけられる。
なに…?
寝坊したから何か、あれ、もしかしてまだ夢見てたりするのかな?
必死だった思考からあまりにも一変した穏やかな面々に彼女の脳内はショート寸前。
さらには研磨のよくわからない行動に目が回る。
「なんか、熱くない?」
「え?走って来たから…?」
「…体、重くない?」
「走って来たからこれくらい普通だと思うけど…」
「…。」
首を傾げる研磨は名前の言葉を聞き、ぱっと手を放した。
「じゃあ、おれの気のせい。」
「…う、うん?」
よくわからない研磨の言動に首を傾げることで精いっぱいだった名前。
じわじわ、彼女を襲い来るものがあった。
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