それより…
「クロが?」
「うん。」
お昼休みの一件の後、放課後になりいつものように部活を行うバレー部一同。
一件の当人が文化祭での教室争奪戦に行っている。
その場を良いことに、名前は休憩する研磨と話していた。
しかし、研磨は「へぇ」と言うだけで特に反応はない。
もう少し反応してくれてもいいんじゃないの?と思った名前だったが、研磨が「それより…」と口を開いたことにびくりと肩を震わせた。
研磨の視線が彼女を捕える。
「そういうことは話してくれるのに、話してくれないの?名前のこと。」
「…。」
口を詰むんで視線を落とす名前。
研磨は視線を彼女から逸らした。
と、その時、隣から「小池さんのことなんだけど…」と小さな声が聞こえた。
部員たちの声だけ響いてる現状だが、それに掻き消されそうなほど小さな声だった。
「…何かあった?」
視線はそのままに、研磨は彼女に問いかける。
本人はとても言い難くしていることはわかっている。
促すことが、彼なりの優しさだった。
名前は、意を決した。
もう、負けた気がするとかどうでもいい。
研磨が小池に直接言うことはないだろう、と口を開いた。
「私が、もっと研磨のこと見てたら、言われなくて済んだんだと―…」
「言われたことだけ言って。」
「…はい。」
言葉を遮られ、研磨に初めて怖いと思った名前は小池に言われたことをすべて話した。
次に研磨の顔を見たときには、眉間に皺を寄せていた。
「最後に、“もっとできる人なんだと思ってました。”って言われた…」
「それは、小池さんが名前のことを“できる人”だと思ってたってことでしょ?」
「…ん?あ…そういうこと?」
「…完璧にできる人なんて、いないのにね。」
そう言って立ち上がった研磨。
それと同時に休憩終了の合図。
「別に、おれ、完璧にできる人が好きなわけじゃないんだけど…」
「え?」
「あ、クロ。」
立ち上がった名前が研磨の声に視線をそちらへ向けた。
どうやら教室争奪戦を終えて帰ってきたところのようだ。
「黒尾さん!どうでした?」
山本が黒尾に声をかける。
それに周りも注目する。
黒尾はにやりと笑うと「2年2組の教室ゲットしましたー」と言った。
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