笑顔
研磨の元へ行くと、視線を下へ落した。
「どうしたの?」
「クロが、名前に伝言、って。」
「黒尾先輩が?直接言ってくれたらいいのに…」
「急ぎ、みたいだった。頼まれたから…」
「はぁ〜仕方なく?」
「…というか。」
「ん?」
いつになく、言い難くしている研磨を見て、名前は首を傾げた。
もしかして、研磨もなにか私に用、かな?
「…クロ、きょうのお昼休みにリレーの練習するって。」
「えっ?!きょう!?」
廊下に響き渡った彼女の声。
行き来する生徒がチラリと彼女を見る。
研磨はとても嫌な顔をした。
「都合悪いとか?」
「いや…ううんっ大したことない。」
ふわっと微笑む名前。
そんな彼女を目の前にすると、言いたいことを言えなくなってしまった研磨は「じゃあ、それだけ。」と言って手を挙げた。
一瞬、寂しそうな眼をした。
「うん。また部活でね。」
あ、さっきと違う顔だ。
心からの笑みではない、張り付けた笑顔。
「名前。」
「ん?」
名前を呼ばれ、きょとんとする彼女。
「俺には、言えないことが、いっぱいあるんだよね。」
その言葉に、ドキンと心臓が大きく拍動した。
図星だったのだ。
「名前、俺と付き合ってから…言いたいこと言えなくなったでしょ。」
「え。」
「付き合う前は、もっと、いろんな話してくれてたなって…最近、思う。」
研磨は柔らかく微笑むと「またあとで。」とだけ言ってさっさと教室へ帰ってしまった。
その背を見つめながら、先ほど言われた言葉を考える。
“名前、俺と付き合ってから…言いたいこと言えなくなったでしょ。”
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