赤いリボンの猫-続編-[完結] | ナノ

悩める二人


「名前ー部活対抗リレーのことなんだが…名前?」


ベンチに腰掛け、ボーっと練習している部員たちの様子を見ている名前に黒尾が昨日伝え忘れたことを伝えに来た。


しかし、まったく彼女の視線は動かない。

不思議に思った黒尾は彼女の視線の前にしゃがみ込む。


チラッと、視線が動いた。


「あ…黒尾先輩。」

「やーっと見たな。どうしたよ。いつもより暗いからみんなも心配してんぞ。」


主将の黒尾は、ただ伝言を伝えに来ただけではなかったようだ。


―あなた、彼女でしょ?しかもバレー部でマネージャーもしてる。それなのに、クラスメイトより同じ時間を共有できてないなんて思うのは間違いだと思います。―


脳内をずっと占領している、悩みの種。


「研磨は…」

「研磨のことは、研磨に聞け。」

「…え。」


落としていた視線を上げれば、黒尾が口角を挙げて彼女を見ていた。


「俺からアイツに、言った。」

「何をですか?」

「“名前は、魅力を発揮してきてる。それに、お前は焦りを感じてる真っ最中ってところだ。”」


名前は目を見開いた。
「ってな。」と黒尾はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。






昨夜、電車に乗り、ゲームをする研磨の隣で黒尾が思い出したように問いかけた。


「あ、そいや。さっき言ってた“必死、なんだけど…”ってどういうことだ?」


研磨は指を動かしながら眉間に皺を寄せた。


「最近、名前は俺の知らない姿を見せる…だから、焦ってるつもりはないんだけど…気持ちに向き合うと、焦ってる。」

「…ふん?」


首を傾げた黒尾に、「指痛めてた時もそうだし…告白されたのだって、黙ってたのには、理由があるんでしょ?って言われたときも感じたんだけど…」といつになく饒舌に話す研磨に、珍しいと感じた黒尾は真剣な話だと思った。


「名前は、余裕があるんだよね。俺に。」


ゲームオーバーと表示された画面から体を少し起こした研磨。


「でも、俺にはない。そんな余裕。」


「だから、必死になってる。」と視線を黒尾に向けた研磨。
その目は、真剣、そのものだった。






「必死になることは、いいことなんじゃねぇか。って言ってやったよ。」

「…。」



黒尾の視線が研磨に向けられる。
「俺によこせぇ!」と叫ぶリエーフに眉をしかめながらトスを上げた。


「研磨も、名前と同じで…追いかけることに必死なようです。」


「そんで…」と立ち上がった黒尾を見上げる名前。


「名前も、研磨を追うことに必死だろ、今。」

「…はい。」

「…お互い様って奴で、いいじゃねぇの?」


黒尾の言葉に恐る恐るという感じで顔を上げた名前が首を傾げる。


「いいんですか?」

「どっちかが追われてると感じれば、その二人は長くは続かない。前を歩いてる方は追いつく相手がいないから…自分と対等になったところで焦りを感じるしかない。」


「つまり、魅力を磨かなくなる。」と言った言葉に、名前は研磨をもう一度見た。


「…今のお前らには、お互い魅力を磨いて対等になろうと必死。だから、互いを焦らせ、掴みに行こうとすんだよ。」


―進化を、止めるためにな。―


「でも、互いに進化してってる最中だろ?掴むことなんてないし、止めることもない。悪影響にはならねぇよ。」


「だから、安心して前を向いてけばいい。」と話すだけ話して、その場を去っていった黒尾。


[ 16 / 88 ]
prev | list | next

しおりを挟む