赤いリボンの猫-続編-[完結] | ナノ

彼女の欠点


「よーす。」

「夜久さん、ちわっす!」

「おう…」


部室に入ってきた夜久に、部室で練習着に着替えていた部員たちが挨拶をする。
研磨の隣が空いていたためそこに荷物を置くとネクタイを緩めた。


「苗字は恐ろしい奴だな。」

「え?」


隣の研磨を見てニヤッと笑う夜久。
研磨は少し首を傾げた。


「みてたんだろ?昼休み。」

「…うん。」


「まさかあんなに速いとは思ってなかったからさ。舐めて見てたことに謝りたいぐらいだぜ。」


苗字のこと、と付け足すと、シャツを脱いだ夜久。
研磨もいつも通り着替える。


「始まる前から、向かうとこ的なしだと思ってたから…。」


平然と言ってのけるあたりを察して、夜久は「じゃあ端っから勝つのは苗字だってことか?アイツそんなにできる奴なの?」と目を見開く。

夜久の言葉に研磨は目を伏せた。


「うん…バレーなんかしたら、俺なんかより絶対巧くなるし…夜久くんも抜かされるかも。」

「は…」

「…本気で名前がしたらって話だよ?」


固まる夜久にシューズを片手に研磨が付け足す。
夜久は「わかってるけどさ…」と同じくシューズを手にすると共に部室を出る。


「その人のセンスだってあるだろ?」

「運動神経がいい人って、センスがあるってことでしょ。」

「ん?」


よくわからない、という顔を研磨に向けた夜久。


「運動神経がいい人は、初めてのことにしたって、ほんの少し練習すればそれなりにできるようになる、でしょ?」

「まぁ、そうだな。」


「センスっていうのは、できるようになった後、短時間で取得した技術をいかに万能に使えるかっていうことだと思う。」


「センスのない人は、それができない。」と付け足す。
夜久は眉間に皺を寄せて少し上を仰ぎ見た。


「ってことはさ…つまり…体育が何でも楽しいって奴は運動神経がいい奴であって、かつ、センスを持った奴ってことか?」


「まぁ、そういうこと。」


体育館についた二人は、先に準備をしていた1年に挨拶をする。


「でも、何でも楽しいって言ったって、何か一つくらい誰にだって苦手な種目があると思う。いくら抜群の運動神経とセンスを兼ね備えていても…。」

「まぁ…人間だからなぁ。欠点はあるだろうよ。」

「…名前は、それがない。」


準備室へ向かう研磨の隣で、え。と表情を固まらせた夜久。


「…おいおい、こえぇよ。苗字が人間じゃないみたいに言うな。」


研磨は隣の夜久に眉をしかめると「でも、かなり失敗するよ?」と欠点を述べた。


「きょうだって、バトン落としてたじゃん。」


颯爽と単独トップで走っていた名前だったが、手にしたバトンを手渡す前にポロッと手から落とすという彼女らしいミスを犯していた。


「あぁいうところで名前は残念。」


「残念って…まぁ、ずば抜けた才能があったって、人には必ずしも欠点があるってことだな。」


研磨はうん、と頷くと準備室から何やら難しい顔をして出てきた噂の人に声をかけた。


「バトン落としたでしょ、名前。」



夜久はふっと笑う。
名前は落ち込みながら研磨に「まだ引きずってるんだから言わないで…本当に申し訳ないと思ってます。」と言う。


「部活対抗リレーではするなよ?バトンじゃねぇしな。」

「うぅ…どっちでもしませんよ!」


体育祭の一種目になっている、部活対抗リレー。
男子バレー部としてマネージャーでも可能ということだったため名前が選抜された。
“やるからには勝つ”という黒尾主将の選抜だ。
残りの3人はもちろん黒尾と夜久と海の3年生が率いる。


夜久が準備室に入っていくのを見て研磨もその後を追うように入っていく。
名前は落ち込みながら持った籠を端に置きに行った。



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