赤いリボンの猫-続編-[完結] | ナノ

クラス対抗リレー


体育祭3週間前となった9月上旬。
まだまだ涼しいとは言えない温度だが、お昼休みのグラウンドには体育祭に向けて呼び出された各学年のあるメンバーがいた。

3年5組の教室では、窓枠に腰を下ろす黒尾の姿。
彼の視線の先には夜久と名前の姿があった。



「あれ?苗字じゃん。」

「え…あ、夜久先輩!」



見慣れない体操服姿の夜久先輩を見て、口を開こうとした名前を察した夜久が先に口を開いて「“部活以外で会うって変な感じしますね”なら、もういーからな。」と言う。

喉から出そうとした言葉を飲み込んだ名前は目をぱちぱちさせると「どうしてわかったんですか?」と何とも言えない表情を見せた。


そんな二人の姿を見ているのは、黒尾だけではなかった。
2年3組の教室の窓際の席である、研磨の目にも彼らの姿は映されていた。

いつもなら見ることのないクラス対抗リレーのバトン継ぎ練習だが、クラスメイトたちがやたらと騒ぎ立て、窓際にみんな集まってきたため、少し興味が湧いたのだった。

研磨のクラスを代表して走るメンバーは、さぞ足が速く期待されているのだろう。
しかし、研磨は名前を見て端っから自分たちのクラスが勝つことはないと思っている。


彼女の運動神経は、みなが知っているはずなのにどうして僅かな希望にみな期待をするのだろうかと思いながら彼女の姿を見つめている研磨。


『え、あれもしかして4組の苗字じゃねぇの?』

『うわぁ…4組手強い。』


研磨と少し離れた場所だといえども、同じ教室の中、しかも窓際となればそう距離はなく自然と彼らの声が研磨に届く。


手強いどころじゃないと思うけど…。


なんて思いながら、彼女と夜久が話している姿を見つめているとクラスメイトの女子がきゃっきゃと騒ぎ始めた。



『4組望月くんいるじゃん!やったぁ!』

『望月くんやばい!かっこいいー!』



“望月”というワードに、少々敏感になりつつある研磨は多くいるその中の一人、“望月”の姿を見つけた。


眉間に皺が寄るのが自分でもわかるほど、嫌な顔をする研磨。


足、速いんだ。
…何部だったっけ、あの人。


どうでもいいことはすぐ忘れてしまう研磨だが、どうでもいいことなら名前も忘れて欲しいもの。
やはり、研磨のどこかでは彼に視線を置いておく必要があるようだ。


グラウンドでは、時間が限られているため体育の先生の指示によってクラス毎に分けられた。

2年4組のバトンは青色。
2年3組のバトンは白色。

名前は3組のメンバーを見て、ドキリとした。


目が合った人がいて、その人が軽く会釈をする。


―私より背が少し高くて…研磨と同じくらいあるはず…女子の中では背が高くて細い、顔は美人。―
―女子バスケ部で、3組の体育委員をしてる人。―


小池さん…。


研磨と、今はどうなのかわからないがメッセージのやり取りをしていた人だ。
私…まだ研磨と連絡先交換してないのに…私より先に連絡先交換した人…。



…研磨は美人がタイプなんだろうか?



じーっと彼女の横顔を見続けていると、腕を引っ張られた。
望月がいた。



「何ぼーっとしてんだよ。」

「え、いや…」



「走るんだから準備しとけよ。」と言って笑顔を向けた望月に、名前の心のもやもやはなくなっていた。

ふっと口角を僅かに上げた名前に、風が襲う。
マネージャーになった時より、少し伸びた髪をひとつに纏めれば、望月が口角を上げる。

夜久がレーンに入る名前を見て「頑張れーマネージャー」と冗談めかして声を上げた。


名前は「任せてください。」と静かに言うと、微笑んだ。



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