すき
「…ごめん?」
首を傾げて謝られ、顔が赤くなる。
「違うよ。謝って欲しいんじゃなくて…」
「とりあえずちゃんと元気になったら話聞いてあげる」
「なんで上から目線…」
「大丈夫だよ。名前しか見てない」
顔は見えずとも、その言葉を聞いてジャージのファスナーを上まであげた。
顔が、隠れるように。
「名前も不安になったりするんだね」
「するよ!普段あまり話さない人と話してたらそりゃ…飽きたのかなとか」
「おれ、別れる気ないよ、今は」
「不安を煽ってくるねぇ」
保健室に入る前に一度振り返った研磨が言った。
「名前が好きだよ」
それを聞いただけで、不安が消し飛んだ。
「好きだよ、私も」
連れてこられた保健室のベッドで大きな独り言を吐く。
言われたばかりの言葉を思い出しては、好きが溢れる。
「なんで研磨じゃないとダメなんだろう」
どれだけイケメンな人に出会ったって、声をかけられたって、友達になったって…好きにはならない。
…ちゃんと話し聞いてくれるところ好き。
何を言い返されても、最後には、あぁ話してよかったな、と思わせてくれる。
優しくないように見えて、実はすごく優しい。
今頃部活頑張ってるんだろうなぁ…
目を瞑って、部活を頑張る彼の姿を思い浮かべる。
…なんだろ…今、すごい…抱きしめてほしい。
「おい、起きろ、帰るぞ」
低い声で目を開いた。
まず視界に入ってきたのは黒尾の姿。
「…」
「嫌そうな顔すんじゃねぇ」
「研磨は?」
「いるけど?」
「黒尾先輩じゃなくて研磨に会いたいんです」
「あーそう、じゃあ先帰るからな」
「さよなら」
何か言いたげな顔をしながらも背を向けた黒尾。
その扉から研磨が姿を現わすまで5分かかった。
「クロ…」
「帰ってもらった!」
「…そう」
にこにこして元気よく言った彼女に、特に返す言葉もなく研磨は「帰ろ」とだけ言った。
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