赤いリボンの猫-続編-[完結] | ナノ

自慢したい訳


夜久からもらったプリントを片手に体育館へ向かう名前。
もう一度プリントを見直して、「コレ、黒尾先輩に渡さないといけないの?」と自分に問いかける。


二人で言い争いを存分に行った後、黒尾に「あ、それちゃんと書いて持って来いよ。」と言われた。

手元のプリントは、服の注文用紙。
おそらく、文化祭の準備だろう。



「あの…黒尾先輩。」



1、2年生は全員来てすでに準備がほとんど終えられている体育館を見ていた黒尾に声をかける。
ペラッとそのプリントを手渡すと頭にポンポンと手を置かれた。



「じゃあこれで注文するか。」

「先輩ってこういう趣味があったんですか?」

「え?ちげーよ。バカ。俺は、ただ…うちのマネージャーを自慢してやりたいだけだ。」



堂々と言い切った黒尾を見上げて、少し引き攣る顔を見せまいと俯くと「では、お願いします。」と会釈をして彼から離れる。


目の前に丁度夜久がシューズを履いている姿があり、そこへ一直線。



「夜久先輩…」

「ん?…げ、何っどうした?」



今にも泣きそうな顔をしている名前の顔を見てぎょっとする夜久。
立ち上がるなり彼女に訳を問いかける。



「く、黒尾先輩がぁ…」

「はっ?!アイツ何したんだよ…く…」

「まっ待ってください!違うんですっ」



彼女の涙を流す姿に焦りと苛立ちを露わにする夜久のシャツを名前は掴む。



「違う?」

「う、うれしくて…」

「はぁ?」



遠くから何をやっているのやら…と彼らの姿を見ている海と研磨と芝山。



「…夜久は、慰めてるのか?」

「だと、思いますけど…」



海と芝山の会話を隣で黙って聞いていた研磨がどこかへ行こうとした時だ、海に腕を捕まれた。



「お呼びだよ。」

「…。」



何とも言えない顔をして、研磨は行く方向を変えた。
手招きしている夜久の元へトボトボと歩いていく研磨の背を海と芝山が安心したように見送った。



「慰めてから戻ってこい。」と体育館を追い出された研磨は、目に涙を溜めたままヘラッと笑う彼女を見て溜め息をついた。



「追い出された。」

「…ごめんね。」

「…どうしたの?」

「いや、黒尾先輩が…マネージャーの私を自慢したいって言ってくれて…」

「…あぁ…。」



研磨は思った。
クロはおそらく、「うちのマネージャーはどの部活のマネージャーよりも可愛いんだぞ。」と自慢したいんだろう。
でも、名前は「マネージャーとして素晴らしい働きをしてくれてることを自慢してやりたい。」と言われたんだと思っている。


考えただけでも、溜め息が出そうだ。

しかし、泣くほど嬉しい言葉だったことに驚く。


これほど喜ぶなら、常に感謝している気持ちをみんなに伝えさせたほうがいい気さえした。



「…みんな、いつも口にしないだけで、思ってるよ。クロだけじゃなくて。」



そう言うと、慣れない手つきで彼女の頭をポンポンとした研磨。
顔を上げた名前が研磨を見るなり、言う。



「…可愛い。」

「…意味わかんない、本当に。」



今のどこに可愛い要素があったんだろうか?と研磨は眉間に皺を寄せる。
名前が涙をポロッと零して笑うから、まぁ、いいか。今日くらい。と思った。



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