名前の兄が「やっくん、きょうウチ来いよ!」とルンルンで言うもんだから拒否出来ず、そして名前に会えることもあって、その日は向かったんだ。
「夜久先輩だ!」
リビングに入ったとき、兄の顔を見てげんなりした名前を今でも覚えてる。
その次に俺の顔を見て笑顔を見せたのも。
かわいい…。
「抱きついていいですか?!」
「いつも許可取らず抱きついてくんじゃん」
彼女が入学した後から、すっかり懐かれたようで俺に抱きついてくる。
…黒尾が好きで抱きつかないことは知ってる。でも、好きな人から触れてくれることがうれしいから俺は何も言わない。
俺から触れると、話は変わってくるんだろうな。
「先輩きょうもカッコいいです!」
いつも、こうやって決まったセリフを言ってぎゅっと抱きしめてくれる。
そうだなぁ…すきです、て言ってくれるようになったらすげぇ嬉しいんだけどな。
もはやそれは先輩後輩の関係じゃなくなる気しかしねぇけど。
そんなことを考えながら、彼女には触れない。
あくまで、抱きつかれている現状なのだ。
抱きしめたら、また違うんだ話が。
そう思ってた、あの頃は。
「なーんで最近抱きついてこねぇんだよ」
名前と付き合いはじめて、俺が不服そうに言ったからか、人目がないところで少しづつ抱きついてくるようになったこの頃、ふと思い出していたあの時のこと。
「夜久先輩っ」
ばっと勢いよく背後から腕を回されぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
「きょうもカッコいいです。好きです」
ドキッとした。
ブレザーに顔を埋めて、小さい声なもののハッキリ聞こえた言葉に思わず笑みが零れる。
夢みたいなことを考えてたあの時の自分に言いたい。もう少し、頑張れよって。
「なんか口癖っぽくてやだ」
「なんでですか!こんなに…っ」
「?」
「…す、好きなのに?」
少し見上げて首を傾げる彼女が愛おしい。
「可愛い」
そう言って彼女を抱きしめた。
-END-