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少し背伸びをして、
「あ、天童だ。」


花の声を聞いて、彼女の視線を追う。
確かにそこには髪を逆立ててペラペラと何かを話している相変わらずな天童の姿。

名前はその姿を見て頬を緩める。


「アイツに不意打ちのキスとかできないでしょ?」

「…え?」


何を思ったのか花の突然の質問に戸惑う名前。


「だって背伸びしたってキスできないでしょ?」

「…わからない。できるかも。」

「嘘っホントに?」


「出来たら教えて。」なんて言う花の内心は、冗談なのか本心なのか定かでない。

でも、正直、名前からすることはあまりない。
するとしても、屈んでくださいなんて言ってしまえば「え?なにっキスしてくれんの?!」なんて普通に言うので、それが嫌なためだ。




「天童…」


放課後、天童は部活へ行くため下足ロッカーで別れを告げる名前。
しかし、きょうはまだ告げない。

下校時刻、もちろん生徒も多い場所でキスができるわけが無い。
名前は「キスがしたい」なんて言えるはずもなくただ待ってほしいと彼のブレザーを掴む。


「珍しいね、名前ちゃんが俺を呼び止めるなんて。」

「珍しくないよ…」

「そうかもだけど、少なくともココでは初めてじゃない?」


そう言われてみれば、そうかも…と名前はあたりを見る。


「もしかして…部活行って欲しくないみたいなこと言う?!言われたら俺めっちゃ困る…」

「なんで嬉しそうなの…」

「だってそんなこと言わないでしょ。名前ちゃん。」


ルンルンとして期待をしてる様子の天童を見ると、言えそうな気がした。


「キスしたい。」

「ほらそうい……え?ナンテ?」


名前に背を向けて体育館へした彼が振り返った。


「キスし―…」

「わわっ待って待って待って!」


これから帰宅する生徒がたくさんいるところで普段と違い堂々と口を開く名前に慌てる天童。
ふふっと笑う彼女に据わった目を向けて「ジョーク?」なんて言う。


チャンスだ。


天童から屈んで目線を合わせて来た。
肩を掴んで少し背伸びをして、頬に口づけた。


「……。」


頬に手を当てて、固まる天童に「部活頑張ってね。」と言う名前。


「うん…」


突然の出来事のあまり返事することで精いっぱいだった天童はそれはもう部活を頑張ったそうな。


「キスできたよ。」


名前からの言葉に花はギョッとした。


「えっ…できたの?不意打ち?」

「うん。」

「アイツ喜んだんじゃない?」

「…どうだろう?」


名前は固まる天童の姿までしか見ていないので、彼がどれほど喜んでいたのか知らない。


「名前ちゃーんっおはよっ」

「はーい、抱きつきは禁止です。」


名前がキスしたことによって調子に乗った天童は花の警戒力を上昇させただけだった。


-END-
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