企画小説はこちら | ナノ
知ってるよ、ほんとの君
黒尾に連れられ、教室を出た研磨。
チラッと4組の教室を覗くと、彼女の姿を見つけた。

元気に笑う姿。
おれには、見せない顔してる。


最近、知った。


彼女は元気で、とても笑顔が多い子だということ。
それが、恐らく彼女の素。

おれには、見せてくれない顔。


たぶん、隠してるんだろうけど…バレバレなんだよね。


「研磨の彼女さー、めっちゃ元気な子だよな。」


部活の前、部室で着替えていると入ってきた虎にそう言われた。


虎に言われると、なんか腹が立つ。


「うん。でも、俺にはあんなに笑わない。」

「え…もしかして、嫌われ…」

「たぶん、俺に見られたら嫌われると思ってる。」


「え。」と固まる虎を見て、「たぶん、ね。」と告げると、部室を出た。


その時、なぜか彼女の姿を見つけた。


「…。」


中庭の方へ向かっていった彼女の後を追いかけようかと一歩踏み出した時、後ろから腕を掴まれた。

振り返れば、そこにはクロがいた。


「ありゃ告白だろ。」

「…。行ってくる。」

「ダメだ。部活行くぞー。」


なぜか強引におれを彼女のところへ行かせまいと体育館へ引っ張っていくクロ。
眉間に皺を寄せた。


気が気でない練習だった。

いつもよりボールが荒い、なんて言われたけど、もう誰に言われたか忘れた。


翌日、4組の教室に入るなり彼女の元へ一直線に向かったおれは注目を浴びていただろう。

でも、どうでもいい。

いつもおれといるときより、何倍も楽しそうに笑っている彼女の目の前に現れたおれを見て、名前は目を丸くした。


「ちょっと、い?」


彼女を連れ出すと、廊下で彼女が口を僅かに開いた。


「…いつもは、あんなんじゃないんだよ。」

「…なんで、隠すの?嫌われそうだから?おれに。」


笑顔を見せて、何がいけないと彼女は言うのだろう。
ここでも隠そうとする彼女に、もう問いかけるしかなかった。

顔を上げた彼女は何で知ってるの、と言いたげな瞳でおれを見てた。


「そんなことしてたら、おれ、名前のこと嫌いになるよ。」


逆効果だと、気付いてほしい。


「笑ってる名前を見て、おれといるときの名前は素じゃないんだと思った。笑ってる時の名前のほうが、楽しそうで、おれは、すきだよ。」


しゅんと、落ち込んだ様子を見せる名前。
隠してきた自分に、反省の色を見せていた。


「きのうの人と、付き合えば…名前はもっと笑えそう?」


本題は、こっちだった。


彼女は勢いよく顔を上げると「なんで…知ってるの?」と驚きの顔をしている。

偶然見ただけだけど…と言うと、彼女は首を横に振った。



「私は、研磨じゃないとやだ。」



「じゃあ、笑うこと。」



それだけ言うとおれは僅かに微笑んで手を挙げて見せた。

彼女が満面の笑みを始めて見せてくれた瞬間だった。


-END-
back to top