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凍える君にキス
「うぅ…寒い。」


12月25日。
いつも通り部活を終え、帰路についた夜久と名前。
マネージャーの彼女と部員達と共に帰っていたが、駅で別れた後は決まってふたりきり。

意識はしたくなくても、してしまうもの。


「あ、カイロやろーか?」

「えっあるの?!」


寒がる彼女に、一つだけ入れていたカイロを差し出す。
とても嬉しそうな顔で「ありがとう!」と言う彼女を見て笑みが零れる。

「早く熱くなれー」とカイロを両手で何かに拝むように擦る名前の姿を見て吹き出した夜久。


「ハハッやめろ、変な人に見えるだろー」

「1人だったら確実に変な人だけど、今は夜久がいるから…」

「彼氏を変な人にするなよ…」


そう言えば、彼女がチラッと夜久の顔色を伺うように見た。
気づいた夜久は、ん?とそちらを見る。


「じゃあ手繋いで?」


突然のお願い。
冷えきった手を差し出す彼女。
そのお願いに、夜久も無言で手を重ねた。


「冷たっ!お前予め水で手洗ってきたな?」

「寒いのにそんなことする訳ない!」


そんな言い合いを繰り広げながら、名前の家に向かって住宅街の路地を歩く。


「うぅ…やだ。早く暖かくなって…」

「まだ始まったばっかだろー…2月までは寒い。」

「まだ2ヶ月もあるよ…」


マフラーに顔を埋めて、ぶるぶると震える彼女。


「名前。」

「ん?」


彼女の返事を聞くまでに、その身を自分の腕の中へ。
夜久の突然の行動に目をパチパチさせる名前。
でも、確実に、身は温かい。


「夜久、温かい…」

「お前さ、このまま帰るつもり?」

「え?だって寒いもん…」

「自己中なのか?」

「…?なんかあったっけ?」


キョトンとして首を傾げる名前に夜久は「25日だろ。」とだけ言う。


「あ…」

「気づくのおせーよ。」


小さく笑う夜久は、そのまま固まる彼女の頬にキスを落とす。
そこで気づいた今の状況に名前は頬を紅くした。


「や…ここで?家来る?」

「ふっ…それは泊まってけってこと?」

「いやっちがっ…」


慌てる彼女の言葉に笑う夜久。


「明日も練習あるし帰るよ。」

「あ…そうだね。」

「…何でちょっと、残念そう?」

「いや…寂しいな、と。」


素直に言葉にする彼女にニヤニヤする夜久。
「じゃあ泊まろーか?」と静かに問いかけて見れば頬を紅くして「い、いいっ!」と首を横に振る。


「じゃあキスだけさせて。」


そう言われて、視線を上げた名前。
目の前の夜久と目が合えば、ゆっくり頷いた。

触れるだけのキスから、次第に深くなる。
繋がれたままの手をギュッと握れば、相手も握り返す。

唇が離れた瞬間に、名前は鼻を啜った。
それに笑う夜久。


「台無しにすんのはえーんだよ。」

「へへ…」


幸せそうに笑う名前を見れば、何でもよくなる。


「あ、そいえばなんか温かい…手。」

「俺の体温全部奪ってんもんな。」

「奪ったんじゃないよ、夜久が分けてくれたんでしょ?」


「ありがとう。」と彼女から本日2度目のお礼。


「俺、名前のその顔好きだよ。」


-END-
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