企画小説はこちら | ナノ
マフラーに隠れる赤い頬
真冬の東京、今日は雪が降っている。
部活を終えたバレー部員たちも身震いをしながら部室へ着替えに行く。


「研磨っ一緒に帰ろっ」

「…。」


身を縮めている研磨の背後からギュッと抱きつく名前。
研磨は、寒さが和らいだことに嬉しさを感じる。
その姿を、通りかかりに見た黒尾がニヤニヤしながら「名前、お前の抱きついている研磨は寒さが和らいだことに喜びを感じてるぞ。」と告げる。


名前は「えっそうなの?!」と研磨から身を離し、彼の目の前に回り込んだ。


研磨は黒尾を睨む。


「温かいからよかったのに…」

「あら、残念でしたわね。」

「…。」


肩を揺らして笑いながら部室へ入っていく黒尾にため息をつく。


「でも研磨のこと好きだからなんでもいい!抱きつけたらっ」と再び抱きつかれた研磨は、さすがに2度目は恥ずかしさを感じ、


「名前、離れて。」

「えっなんで?!温かいからよかったんじゃ?!」

「2回目は…なんか、恥ずかしい。」


それだけ言えばそそくさと部室へ入っていった研磨。
名前は首をかしげた。


「お前らって付き合ってんの?」


部室に入るや否や黒尾に問いかけられた研磨は「そんな事はないと思う…」とよく分からない返事をする。


「曖昧な関係だなぁ」

「ちゃんと付き合っとかねぇとその内、面倒なことになっても俺知らねぇぞ。」

「…わかってる。」


ずっと付き合ってるのか付き合っていないのかわからない関係のままやって来ていた二人。

しかし、最近の名前は普通に好き好き言ってくるため、研磨は自分の気持ちも彼女に伝わっているとばかり思っていた。

でも、付き合ってるという証拠はどこにもない。
彼女なら、言いそうな「どこか行きたい!」もない。

研磨なりに、どこか引っかかってはいた問題だった。


今日こそ言わなければ、いつまで経っても言わないだろう。

名前が誘ってくれたし、一緒に帰ることは確定している。


あとは…自分のタイミング次第だ。


部室を出た途端、外の寒さに身震いをする。
すぐ近くに既に着替えを終えた名前の姿があった。
制服のスカートが揺れるだけで寒いと思う。


「ゴメン、早く帰ろ。」

「うん!」


待っていた事なんて、気にもしないような笑顔で彼女は頷いた。

いつも思う、どこまで優しいんだろうって。


おれなら、怒るかも…とか考える。


帰路を歩いている途中、前を歩いていた名前が振り返った。


「いつにも増して喋らないね…体調悪いとか?」


心配そうに、問いかけるその表情は真剣そのもの。

こういう、ちょっとした違いにも、彼女は気づく。


そういうとこ、おれにはないから…



「好き。」

「…え?」


マフラーに顔半分を埋める研磨。
手は名前の袖を掴んで離さない。
視線が落ちる。


「名前のこと、好きなんだけど…」

「…その好きは、キスしたいとかの好きでいいの?」


マフラー越しに呟かれる。
名前の問いかけに、研磨は僅かに頷いた。


「…私も好きだよ。」


研磨が視線を上げた時に見た彼女の表情は、今まで見た彼女のどの笑顔より、輝いて見えた。


「名前、温かいからいい。」

「なにそれ。」


-END-
back to top