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コートの厚さまでももどかしくて
真冬の帰路。
コートとマフラーを着用して名前は学校から寮までの短い距離を天童と歩く。
天童はいつもの如く饒舌に話をする。
分かれ道に着いた。
家に帰るため名前は真っ直ぐ向かうが、天童の手が伸びてくる。

珍しい。と思った。


「ねぇ、名前ちゃん。俺のこと好き?」


不安な気持ちが、素直に言葉として発せられる。
天童の、彼の、いいところだ。


そっと、抱きしめ返せば、彼の胸に顔を埋める。
「大好きだよ。」と小さい声で言えば、ぎゅっと抱きしめる力を強くした。



「…ダメだ。このまま持って帰ろう!」

「え?」


踵を返しグイグイ名前の手を引っ張る天童の背に向かって慌てた彼女は話しかける。


「ま、待って。どこいくの?」

「俺の部屋に決まってんじゃん〜」

「えっ…待って…そんなつもりで来てない…っ…」


振り返るなり、彼女の唇に唇を重ねた天童。
そっと離し、至近距離で「ウソだよね?」と呟かれた。

満足そうに微笑む天童に引かれるがままのその手を見つめる。


「…へんたい。」

「その言い方は宜しくない!やめてっ」

「じゃあ天童の今の心の内を明かしてくれたら…」

「んー…どーしようかと思ってるよ?」


なにを?と首を傾げる彼女。


「部屋に入ってから抱きしめて、キスすんじゃん?それからコート脱がせるとこまではいーんだけど、あまり手慣れたところ見せると名前ちゃんが引くかなとか…」

「変態!」


名前ちゃん、変態って言うのはさ?と理屈を話し始める天童。


「…余裕ないんだね。」


静かな路地で、呟かれた言葉に、天童は振り返った。
意表を突かれたような、そんな顔。


「アレ、ばれた…。」

「うん。」


名前の様子を見ていた天童がふっと笑った。


「…名前ちゃんもないよねぇ。」


だから、わかったんだよね?と嬉しそうに言う天童に、口角が上がるのを感じた。


-END-
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