12月25日クリスマス。
街では恋人たちが幸せそうにその一日を過ごす。

そんな日、白鳥沢学園高等学校の体育館には、バレー部員の姿があった。


「ほんっとウチ（白鳥沢）って恋に非協力的ダヨネ！」

「まぁ、覚にはそこが残念な点だろうな。」


ボールを持った大平が天童の嘆きを聞き苦笑いをする。
天童は得点板に持たれて目の前で繰り広げられている熱い練習試合を見ながら「みんなさ、カノジョいるんデショ？」とコートに向かって投げかける天童。


「…何言ってんだ？」

「あ、英太くんはいないんだったネ。」

「…。」


目の前を通り過ぎようとした瀬見が天童を呆れた顔で見る。
そしてそのまま通り過ぎていった。


「若利くんはさ、デートの予約あったりする〜？」

「？あぁ。」


次に目の前を通ったのは大エース牛島だ。
天童に問いかけられた本人は、返答だけしてそこを通り過ぎていった。
その様子を見ていた大平が「え？あるの？」と少し目を見開いた。


「あ、賢二郎じゃん。」

「どうも。失礼します。」

「アッ待って待って！ここ通る時は俺の質問に答えてからじゃないとダメだよ？」

「…はぁ。」


次に目の前を通り過ぎようとしたのは後輩である白布だ。
白布は天童に絡まれては面倒なことになることをわかっているためそのまま逃げようとした。
しかし、天童はそれを許さなかった。

大平はその姿を見て思う。

あそこ（得点板の前）を通るときは覚の質問に答えなきゃいけないルールになったのか。と。


「今日クリスマスだよ？デートの予約は？」

「ありません。失礼します。」

「…賢二郎と英太くんは無しで、若利くんはありダネ。」

「…天童さん、今なんて言いました？」

「ん？」


天童の言葉に白布が引き返し、珍しく天童に話を聞く。
「やっぱり、若利の話は誰もが驚くよな。」と大平は思った。


「そんなことしてないで、自分の彼女はどうするんだ？」

「ん〜？何もないけどさ…会えないよりいいかな、と思ってさ。」

「おう？」

「だから、会う約束はした。」


そう言って鼻歌を歌う天童。
その姿を見た大平は「楽しみなんだな。」とすぐわかった。


部活を終えると、マフラーを首に巻き、「じゃ！」と部室を後にした天童。
彼は門で待っている彼女の元に直行した。

門でマフラーに顔を埋めて目を瞑っている名前を見て、天童が「名前ちゃん。」と声をかける。

名前は目をパチッと開き、目の前にいる天童の姿を見て柔らかく微笑んだ。
「お疲れ。」と。



真っ暗な帰路を歩く。
天童は寮に戻るが、名前は自宅へこのまま戻る。


「クリスマスなのに、何もしてあげれなくてごめんね…」


どこか落ち込んだ様子のその背を見て、マフラーに顔を埋める名前。


「天童がいてくれるだけで嬉しい。」

「何か言った？」

「…。」


黙ったまま天童のブレザーを掴む彼女。


「少しでも、一緒にいれるだけで、十分だよ？」


そう言われた天童が黙っているわけもなく、彼女をぎゅっと抱き締めた。


「名前ちゃん、俺のことホント好きだよね。」

「…天童も、でしょ？」


見上げた先、天童の表情は柔らかいものだった。


「もっと文句言ってもおかしくない状況なのにね…」


なんで、言わないの？と問いかける天童に名前は答えた。


「今は、まだ…もう少ししたら、甘えさせてね。」


-END-