青葉城西高校の、バレー部主将と言えば、この人。
毎日女子に黄色い声援を受けていれば自意識過剰になることだってある。
及川徹に、私は今キスされようとしていた。
事の発端は私が他の男子と親しげに話していたことから。
珍しく教室を覗いたらしい及川がズカズカと教室に入ってくるなり手首を掴んだ。
「名前ちゃんは俺のなの!手ぇ出したりしたら許さないからね。」
それは半分脅迫のようなものだった。
「ちょっと…放置してる及川がわるいんでしょっ」
たまに顔出してくれたと思えば、この人は自分は良くて彼女はダメという、なんて人だろうと思う。
「でも浮気はダメでしょ?」
「浮気じゃない…アレを浮気って言うなら及川は毎日浮気してる。」
ムッとする名前に、及川は「へぇ」と名前に詰め寄った。
見上げる名前の下顎を持ち上げる。
「っ…」
「名前ちゃんヤキモチ妬いてくれてたんだ?」
人通りが少ない真冬の廊下。
ニコニコしながら目の前の男は名前を見つめる。
名前は周りの目を気にしながら「…モテる及川徹は嫌い。」と言うと視線を落とした。
「名前。俺は好きだよ。」
至近距離でそう囁かれ、顔を赤くしない者はいない。
頬に添えられる手は温かく、その手に手を重ねれば唇がそっと重ねられた。
寒い廊下に誰も必要最低限出ようとしないこの時期。
唇が重なるにつれ、体温は上昇していく。
腕をそっと掴まれ、そのまま腰に手を回された名前に、及川は唇を僅かに離して言う。
「…ここ寒いのに…名前ちゃん熱い。」
「お、及川が触るから…」
そう言えば目の前の彼はふふっと微笑む。
その笑顔の裏に何が隠されているのか…
スカートの裾から伝う手。
ビクッとした名前は慌ててその手を掴んだ。
「バカッ!」
「えーなんでーそういう雰囲気だったじゃんか。」
「ここで?!ならないならない!」
ここは廊下ですよ、及川さんと名前は首を横に振る。
「寒い廊下でも、俺といれば問題ないっ」
「…とんだ自意識過剰だ…」
それだけで大丈夫なら、みんな誰かと一緒にいることを望む。
特に寒がりの人なんかは。
「ねぇ、抱いてい?」
「ダメっ」
-END-
back to top