クリスマスの日。
名前は家で携帯を手放すことなく、ただ一本の連絡を待っていた。
午前中、学校に行ったとき、彼氏に“部活終わったら連絡する”と言われたからだ。
ベッドで身を横にしていた名前の手元の携帯に連絡が入る。
時刻は19持半。
“外、出てこられる?”と待っていた赤葦からの連絡だった。
慌てて身を起こせば、玄関へ向かう。
玄関を開ければ、真冬の夜。
吐く息が白く、人がそこにいることがわかった。
視線が会い、パッと表情を明るくする名前。
「赤葦っ」
「ゴメン、遅くなって…」
申し訳なさそうに謝る赤葦に抱き着いた名前。彼女をそっと抱き締める赤葦。
「会いに来てくれただけで十分だよ。ありがとう。」
「学校で会ったけどね。」
「それはまた別!」
薄着で出てきた彼女の見るからに寒そうな姿に、そっと首に巻いた。
赤を基調としたチェック柄のマフラーだ。
「クリスマスプレゼント。」
「可愛い!ありがとう!」
あ、と名前は自分の手を見て、携帯しか持っていないことに気づき、赤葦に渡さなければならないプレゼントは部屋に置いたままだ。
「取ってくる!」と家へ戻ろうとする名前の腕を掴み「いいよ。今じゃなくて。」と赤葦は言う。
ムッとする名前の視界をふわふわした白いものが過る。
ちらちらと降りだした白い雪。
「雪…」
真っ黒な空のどこからともなく降り注ぐ雪を見上げる彼女を見て、「あ。」と思い出したように言う赤葦。
「ん?」
「そうだ。もう一つ渡したいものが…」
そう言って手を差し出す赤葦に、名前は首を傾げた。
手を、出せばいいのかな?
そっとその手に手を重ねれば、ぐいっと引き寄せられる身。
突然のことにバランスを崩した名前をぎゅっと抱きしめる赤葦。
え?
突然のことが重なり過ぎて名前の思考はショート寸前。
「名前。」
甘く、耳元で囁かれた名前にドキッとする。
少し顔を上げれば「キス、してもい?」と聞かれ「えっ…」と戸惑いの声を零した。
「嫌?」
「嫌じゃなくて…その…聞かないで。」
恥ずかしそうに答えた名前はぎゅっと赤葦のコートを掴んだ。
「…可愛い。」
「…え?」
初めて、可愛いと言われたことで名前の視線が赤葦を捉える。
そこを狙ったかのように、そのまま唇が重ねられた。
「わざと…?」
「何が?」
首を傾げる名前に柔らかい笑みを向ける赤葦。
「…絶対わざとだ…」
「そうかも。」
「っ…」
悔しそうにする名前にもう一度キスをする赤葦。
彼女は、恥ずかしさのあまりコートに顔を埋めた。
「…もうこれ以上はムリ。死ぬ。」
ふっと口角を上げて、彼女を抱き寄せたが、気づいた。
「…家、入りな。」
「えぇっなんでっ」
「寒いだろ?」
「寒くない!」
「…早く。」
嘘はいいから、という目を向けて身を離す赤葦。
名前はその手を握りしめた。
「プレゼント渡さないといけないから中入って!」
「え…今更…?」
「いーいーかーらー!」
呆れた顔をしながら、赤葦は彼女に手を引かれるがまま家の中へ入った。
-END-
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