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私だけに笑って見せた
研磨は、正直あまり笑わない。
優しい顔をよくするけれど、それは私にはあまり見せてくれない顔で…


「研磨ぁ!」


烏野高校の日向が研磨に声をかける。
彼と話しているときの研磨の表情は豊か。

今もほら、優しい顔してる。


いいなぁ…。


ボトルをもってボーっと二人を見ていた名前。
その手から奪ったのは夜久。


「先輩…」

「ボーっとしてんなよ。研磨が気になるのはわかっけど。」


にやにやと笑う夜久に「別に…」というと「嘘つくな。」と返されてしまった。


「…夜久先輩嫌いです。」

「彼女いるんで嫌いで結構。」

「夜久先輩の彼女さんはさぞお可愛いんでしょうね!」


言い合う名前と夜久の姿を、研磨は見た。
そちらへ向かってトボトボ歩く。


「お可愛いってなんだよ…」

「絶対夜久先輩の彼女にだけはなりたくないです。」

「俺の彼女を貶してるだろ、お前。」


「ちょっと。」


二人の会話に割って入ったのは、研磨だ。
二人の視線が研磨へ向けられた。

彼は眉間に皺を寄せて「試合。」とだけ言う。


夜久は「ほら。」とボトルをマネージャーである名前へ渡し、コートへ駆けていく。
その背を睨む名前に研磨が声をかけた。


「夜久くんと仲いいんだね。」

「はぁ?仲良くない!大っ嫌いあんな人。彼女の話で私を蹴落としてー…」


名前の言葉が止まった。


研磨の顔が、柔らかくなった。


「名前が、羨ましい。」

「?」

「言いたいこと言えて…そういうとこ、いいと思うよ。」


口角を上げて笑う研磨。


ドキッとした。


「け、研磨も言えばいいじゃん。」

「言ったら面倒くさくなるじゃん…さっき、夜久くんと言い合って、面倒くさそうだな…って思ってた。」

「でも、そこがいいんでしょ?」

「うん。いいと思う。」


よくわからないな…と思いながら、研磨とコートへ向かう。
ベンチへ腰かけると、研磨を見る。


チラッと視線が合う。


まただ。


口角を上げた彼に、不意をつかれる。


「…好きだなぁ…。」


あの顔、私だけに向けてくれたらいいのに。


-END-
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