12月25日。
きょうは、クリスマスだ。
「ねぇねぇ賢二郎ーきょうなんの日?クリスマスだよ?」
「そうですね。」
白鳥沢ではクリスマスなんて関係ない。
白布たち男子バレー部は普段通り体育館で練習が行われていた。
引退したはずの三年生である天童が体育館に居るのは後輩達の練習相手として手伝いに来ているため。
天童はクリスマスだ、クリスマスだ、と、今日という日を特別な日として主張し続ける。
白布は手に持ったボールを見つめた。
「賢二郎はカノジョと会うの?ほら…誰だっけ……?俺いつも賢二郎のカノジョだけ名前覚てないんだよね…なんで?」
「彼女の話、しないからだろ?」
「…言われてみれば。」
彼女がいることは、部員のだいたいは知っている。
しかし、瀬見の言う通り、彼は部活では一切彼女の話を口にしない。
だから、部員達も白布の彼女の名前はみな知らないのだ。
そもそも白布に彼女がいると部員達が知ったのも天童が体育館で「賢二郎はカノジョいるの?」と問いただした時、うるさくて渋々答えた結果、現在に至っている。
「部活終わった後に、約束しました。」
安易に答えた白布に、きょとんとする天童と瀬見。
白布は視線を上げて天童を見ると「練習しましょう。」と言った。
部活を終え、天童から逃げ切ることに成功した白布は学校の門へ向かいながら携帯を手にした。
「あ、白布!」
「あ…」
電話を掛けようとしていた彼の目の前に現れたのは、彼女である名前の姿。
名前も部活をしていて、終わった後待っていたのだ。
「なんでここに?」
「ここなら来るだろうなっと思って。」
靴を履き替えに来るであろう白布を、下足ロッカーで待っていたらしい名前。
彼はふっと笑う。
「え、何で笑ったの?」
「ううん…待っててくれたんだなぁと思って。」
「うん!待ってた!」
ニコニコして靴を履き替える白布を待っている彼女に、無言のまま手渡したプレゼント。
無言で受け取ると「プレゼント?!」と声を上げる名前。
その顔は嬉しそうというより、悲しい顔をしていた。
「?嬉しくない?」
「違うっ私、用意はしてたんだけど…持ってくるの忘れて…白布から、貰えると思ってなかったから…言わなかったの。ゴメンね。」
「あぁ、そういうこと。」と言えば、申し訳なさそうにしている彼女の頭に手を乗せた。
「いいよ。別に。会えただけで嬉しいし。」
「えぇ…」
難しい顔をする名前。
何を言っても満足してくれそうにないな、と考えていると彼女からとんでもないことを言い出した。
「じゃあハグで許してっ」
「え…?」
だってこのままじゃ嫌だ。と両手を広げる彼女。
恥ずかしくて視線を逸らせば、有無言わされぬままギュッと抱きしめられた。
恥ずかしいが、そっと背に腕を回した白布。
「何もしてくれなくてよかったのに…」
「うん、でも、なんか、抱き締めたい気持ちだったから。」
そんなことを言う彼女は抱き締める腕に力を入れる。
「…あまり可愛いこと言わないでくれる?」
「えっ?言ってないよ。」
「言った。」
身を離して首を横に振る彼女と同様に、白布も首を横に振る。
それが可笑しくて、ふたりで笑った。
「大好き。」
「うん。俺も。」
そこへやってきたバレー部の先輩たち。
「アレッ賢二郎?」
「おぉホントだ。」
嫌な顔をする白布を他所に天童は彼女に「ねぇ、名前なんての?」と名前を尋ねる。
そんな彼女の腕を掴み、「答えなくていいよ。」と言うと、「帰りますので、失礼します。」と頭を軽く下げその場を去った。
二人の背を見つめながら天童が瀬見に言う。
「…賢二郎ってさ、彼女大好きなんだネ。」
「?なんでそう思った?」
「名前すら知られないようにするんだよ?独占欲の塊だね。」
「?」
良く分からないな、と難しい顔をする瀬見。
天童のみぞ知る、白布の本性だった。
-END-
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