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握られたコートの裾
季節は真冬。
身を震わせれば、どこからか「あ、」と何かに気づいたような声がした。

辺りを見渡すも人はいない。
名前は早く家に帰ろうとした時、「名前。」と自分の名前が聞こえた。


「あ…」


背後からやって来たのはブレザーにコートを羽織っている国見。


「国見、一緒に帰ろーって…。」


下足ロッカーにつき、肩を並べてロッカーを開けた二人は靴に履き替える。
そこに金田一がやってきた。


「名前じゃん。」

「うん…?」


国見と名前を交互に見た金田一は「やっぱ俺先帰るわ!」と苦笑いして先に帰ってしまった。


「え…一緒に帰らなくてよかったの?」

「いいんじゃない?」


本人が先に帰るって言ったんだし、とロッカーを閉めた国見。
名前は難しい顔をして突っ立っていたが、「帰らないの?」と国見に言われロッカーを閉めた。


「寒いっ」


びゅっと風が吹き、制服のスカートが靡く。


「ねぇ、今日なんで声かけたの?」


いつも国見から声をかけてくることはあまりない。
しかしさっきは珍しく声をかけてきた。
国見は顔色一つ変えず


「何でって…目の前に彼女がいて声かけない人いる?」

「英は掛けないと思ってた。」

「偏見が酷い。」


「だっていつも近く通ったって声かけてくれないよ?」と言えば「名前が声かけてくるのわかってるからしないだけ。」と言われ、そう言えば今日は私が気づかないところにいたな…と考える名前。


「…本当に私のこと好き?」


そう問いかけてみれば国見は「好きじゃなきゃ声かけない。」と涼しい顔で言った。


「…そうだろうけど…」


受け身姿勢な国見に不服そうな名前。
自分が声かけること前提になっていることにモヤモヤする。

別れ道に差し掛かり、「じゃあまた明日。」と普通に家へ帰ろうとする国見のコートの裾を掴んだ。
詰まった身に気づき視線を背後へ向けると、そこにはムッとした顔の名前。


「?なに?」

「英の受け身な姿勢は嫌い。」

「え…」


はっきり嫌いと言われ、僅かにショックを受ける国見。


「そのまま続けるなら別れる。」

「…。」


胸に刺さる言葉に国見は「じゃあ別れないためには俺から行動すればいいの?」と名前に問いかける。

名前はその言葉に驚いた。
国見が、別れたくないと思っていることに。


「わ、別れたくないならなんで初めから行動しないの?」

「それでいいんだと思ってたんだよ。名前が、初めての彼女だし…嫌われたくないし…わからないから教えて。」


と言いながら、彼女に身を寄せた。
そっと抱きしめられた名前は初めてのことにドキドキする。


「…じゃあしたいこと、俺からしていいってこと?」

「え?」


「じゃあキスしたい。今。」と唇を寄せる国見に「ストップ!」と彼の胸を押した名前。
眉間に皺を寄せる国見に名前は「こ、それには心の準備がいる!」と頬を紅くして言う。


「…心の準備…?それ、いつできる?1分くらい?」

「真面目かっ」


「待てないし、好きなら準備いらないじゃん。」と言われてしまえばもう遅い。

国見のコートの裾をぎゅっと握れば、甘いキスが一つ落とされた。


-END-
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