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鈴の音と共に現れるのは
12月25日。
午前中、終業式を終えた梟谷学園高等学校の体育館では、いつもと何ら変わりなく練習が行われていた。


「ジングルベールジングルベール鈴が鳴る〜♪」

「「……。」」


エース、木兎がボールを持ってるんるん歌いながらコートの上を歩いて行く。

ただ黙って見つめる部員達。
木兎の様子を常に見守る赤葦はため息をついた。


「木兎さんだけ特別な日、みたいですね。」

「アイツのあぁいうところ分けて欲しい。」


木葉がボールを持ったままため息をついた。


「昨日から歌ってますが…。」

「アイツの活力はクリスマスで補われてるな。」


小見が羨ましそうにルンルンな木兎を見る。


「名前さんでしょうか。」

「「さぁなぁ〜。」」


その疑問は、すぐさま解決される。


「俺によこせーい!」

「名前さんと会うんですか?」

「!?」


スカッと大きく空振りした木兎。
ボールは虚しく落下した。


「…。」


キョトンとする木兎の様子を見て部員達は思う。


図星だ…。


「な、な、なっ何で知ってる?!」

「…勘です。」


赤葦、ウソついた。


「浮き足立ってんもん、お前。」と木葉が言えば、ギョッとする木兎。


「そんなに?!」

「おう。」


「まじかーまぁでも本当のことだしいいけど!」と盛大に笑う。

隠してるつもりだったの?アレで?、と部員達は思った。


「名前さんとは部活の後に会うんですか?」

「いや?あしただ!」

「「……え?」」


赤葦の質問に当然「そうだ!」と返事するものだと思って聞いていれば、予想外の返答にその場にいたメンバーは固まる。

木兎は周りの様子に、「ん?なんだ?」と眉を顰めて問いかける。


「…ヤバイ感じが…」

「俺もする。」


赤葦の言葉に小見が頷く。
その直後、二人が木兎に背を向けて作戦を立て始めた。

数分後、赤葦が「木兎さん。携帯お借りします。」とだけ言って、体育館を出ていく。

木兎は「…赤葦いねぇし休憩するか?」と気にせず部員達に問いかけた。


5分後、赤葦が戻り何事も無かったかのように練習は再開された。

部活終了後、木兎の自主練習にいつものように付き合う赤葦。

木兎がボールを手に、体育館の扉を見る。


「?どうかしました?」

「赤葦…」

「?」


扉を見つめたままの木兎に歩み寄れば扉を勢いよく指差し叫ぶ。


「サンタッサンタ来た!!」

「そんなわけないじゃないですか。」


視線をそちらへ向ければやはり何も無い。
しかし、鈴の音が僅かに聞こえる。


「ホラホラ!鈴の音、するだろ?!」

「…あ。」


扉を見続けていた赤葦が口を僅かに開けた。
扉が開き、「寒っ」と身震いをする制服姿の女子。


「サンタ、来ましたよ。」


そう指をさした時にはすでに木兎の姿はなく彼女の元へ駆け寄っていた。


「名前!?なんでっ」

「赤葦くんに呼ばれて…」


振り返る木兎に笑みを向ける赤葦。


「じゃああの鈴の音は名前か?」

「ん?鈴の音…?あ、コレ?」


そう言って鞄の中から出された小さな鈴。


「きょう学校で木兎ずっと歌ってたから、あげようとおもって。」

「おぉー!サンキュー!」


赤葦はそんな2人の会話を聞きながら呆れた。
鈴でいいのか…と。


「赤葦くんに、せっかくのクリスマスなんだし、会えないわけじゃ無いので会いに来てあげてくださいって言われて慌てて来たけど…」

「木兎さんのことだからどーせ、その日は部活だから無理みたいなこと言ったんだろうな、と思って…」

「おう、言った!」

「やっぱり…」


呆れる赤葦に名前は「ありがとうね。」とお礼を言う。


「ほんと言うと、せっかくのクリスマスに好きな人に会えないって思って、ちょっと寂しかったから…」


ヘラっと笑う名前を見た木兎がガバリとそのまま彼女を抱きしめる。


「へっ?!」

「俺も名前大好きだ!」

「ちょ…」


慌てる彼女を無視して、そしてその場を忘れたのかキスをしようとする木兎に赤葦がため息をついた。


「木兎さん、ソレは後でお願いします。」

「あれ?」


体育館にはまだ残っている部員達がいて、もちろん騒々しい彼は誰もが気になる存在。


「じゃあ後でな!」

「い、言わなくていいっ!」


慌てる彼女に首をかしげた木兎はそのままコートへ戻る。

同じくコートに戻った赤葦は、小見の視線を感じそちらを見れば、グッと親指を立てていた。


-END-
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