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顔もみれないくらい

「研磨!」


名前を呼ばれ、振り返れば名前の姿がそこにはあった。

研磨は視線を落とし「なに?」といつも通り短く問いかける。

彼女はそんなこと御構い無しに「きょう当たるんだよ〜教えて!」と教科書とノートを持ってくる。

ノートを見れば途中まで自力でやっていたことがわかる。

でも…


「間違えてる。」

「えっどこ?」

「全部…違う。」


ガクッと気を落とした名前は「何が足らないの…」と呟く。


「足らないんじゃなくて、式にある数字の役目を果たしてない…かわいそう。」

「そんな存在自体を否定してるんじゃないんだよ?数字さん。」

「…もはや数字の立場がない。」

「えっ」


名前の言葉に研磨は溜め息をつくと、数式を指差す。
うんうんと理解する名前の元に、来客があった。


「あ、いた。苗字〜呼び出しだぞー。」

「?呼び出し?」


2年4組のクラスメイトが彼女を呼ぶ。

本来名前の姿は隣のクラスにあるはずだが、今は研磨のクラスにいるためその存在は2年4組にはない。

彼女を呼びに隣のクラスからわざわざ来たようだ。

よっぽどの用事なのだろう。


「男の。」

「…おとこ…」


3組のトビラで名前のクラスメイトは丁寧に相手の性別を言ってくれた。
名前はノートに必死でそれどころではない、と言いたい様子。


「…いかないの。」

「いかないよ。研磨といたい。」

「…。」


ソレってどういう…?

研磨はよくわからないと首をかしげる。
「おーい苗字ー」と扉では相変わらず待っているクラスメイト。

名前はペンを握ると「うるさい!あたしは今絶対当たる問題やってんの!邪魔する男は眼中にもない!」と叫び、キレた。

再び席に着くとノートに答えを導き出していく。


「…言いすぎ。」

「いーの。あれくらい言わないといつまでいるかわかんない。」

「はぁ…」


背後に集まる注目の眼差しが痛い。
研磨は「ばか。」と呟く。


「ばか?」

「ばか。」

「なんでっ」

「おれといるより、絶対楽しいと思うよ?」


研磨は名前に言われた言葉を思い出し、そんなことを言う。

名前は「ねぇ研磨知ってる?」と研磨の顔を覗き込む。
研磨は視線を逸らした。


「なに…」

「研磨、私の顔あまり見てくれないんだよ?」

「ニガテ…」

「そうだね。元々。でも、私が研磨にむやみやたらに近づき始めてから、なんだよ?」

「?」


どういうこと?と研磨は考えながら視線を落とした。


「私のこと、意識してるでしょ。」

「…意識しないほうが、ムリ。」


むやみやたらに近づいてくる彼女をどうも苦手だと思っていたが、今や居ないほうが不思議になる。

来てくれると、嬉しく思う。


「顔も見れないほど意識してるってさ…」

「…変なこと言わないでよ?」


名前は持ったままのペンをご機嫌良く左右に振る。
それを見つめながら口を開いた。


「好きでしょ?」


研磨はピクリと身を揺らすと、ゆっくり視線を上げて彼女を見た。


「そうかもね。」


聞いておいて驚く顔をする彼女に、研磨は「自分が聞いたんじゃん」と呟く。


「へへ。」

「なに。」

「あ!やばいっもう時間ないじゃんっ次っ」


そう言ってノートに齧り付く名前。


「あの人、どうするの?」

「えっダレ?」

「…呼び出された人。」

「あぁ。忘れてた。」


にこにこ上機嫌な名前に、研磨は溜め息をついた。


「せめて返事してあげなよ。」

「え。なんで告白だってわかったの。」

「…バカにしてる、よね?」


-END-
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