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泣かせたみたいだったから
研磨とは、部活で知り合った。
山本と同じクラスだったことからマネージャーに誘われ、あまりの押しに、頷いたのだ。

バレー部に入って、仲良くなったのは研磨だった。

先輩たちは私たち後輩に偉そうにして、それに反抗できる勇気もない。

我慢が限界に達そうとしていたとき…


「名前、辞めないでね。」

「え…」

「おれ、名前がいるからやれてるところあるし…。」


部活が始まる前、まさにこれから申し出ようとしていた時に、研磨は知っていたかのような抜群のタイミングで私を止めた。

研磨の方が、つらいことなんて多いだろうに、マネージャーの分際で、いずれ居なくなる3年生がいやだからという理由で辞めることを考えていた自分に、悔しいと思った。


「じゃあ、研磨もね。」


お互いがお互いを支えていく存在となった瞬間だった。
3年生が引退した後、2年生が上級生になれば部活は楽しくなった。


「けーんーまーぁー」

「…」


嫌がる研磨にもかかわらず黒尾先輩は食ってかかる。
自主練しろ!と言われ、いやだ。と一言言うなりそのまま体育館を出ていく研磨にため息を一つついて私を見る。


「名前、連れてこい。」

「えぇ…無理強いは良くないですよ?」

「好きな人には嫌われたくないですって?」

「?!」


黒尾はにやり、と不敵な笑みを見せるとニッコリして「だーいじょーぶだって。アイツ、名前の言うことなら聞くし。しぶしぶだけどな。」と素直に喜んでいいのかわからないことを言われてしまえば行くしかない。

体育館を出ると研磨の後をおった。
既に姿は見えないあたり、恐らく部室にもう戻ってしまった可能性が高い。

部室まで行かれると既に着替えてる可能性も高い。
どうすべきかと、部室へ向かっているところに女のコの声がした。

ちらっとそちらを見れば、薄暗くてハッキリとまではしないが人影が見えた。
慌てて身を隠す名前の耳に入ってきた言葉…


「こ、孤爪くんのこと気になって…」


ハタっと、思考が止まる。
孤爪って、研磨だよね…研磨しかいないよね。

その瞬間、ドキドキと胸が嫌な音を立て始めた。
自分の気持ちに目を背けて来た訳では無い。

ただ現状を変えたくない、その気持ちがこの気持ちを隠しておくべきだとした。

でも、逃げ腰だった。

いくら近しい存在だからって呑気にしていた自分に後悔する時が来たのだ。

だめ…研磨がいなくなる。


無意識に目頭が熱くなる。
ごしごしとジャージの袖で溢れる涙を拭う。

この後黒尾のところへ行かなければいけないのだから泣いてたら驚かせてしまう。


「え、名前?」

「っ…あ、研磨!」


声をかけられ、パッと腕を下ろす。
外は薄暗いため、恐らく鮮明に顔が見えることは無い、そう名前は思っていた。


「…なに、してるの?」

「あ…研磨呼び戻してこいって黒尾先輩に言われて…後追ってきたんだけど…」

「…だけど?」


しまったと、思った。
だけど、じゃなくて、後追ってきたところだって言わなければいけなかったと。

研磨は首を傾げることも無く、珍しく彼女をじっと見つめている。
名前は逆に俯き、視線を合わせることを拒んでいた。

その様子を見て、研磨が1歩近づく。


「名前、嘘つくの下手。」


名前の手を右手で握ると左手で頬に添えられる。
目を見開いた。


「見えてる。涙。」

「へ…え、うそ。」

「見えてないと気づかないよ。」


それもそうか、と納得したところで目の前の彼と目が合って顔が熱くなるのがわかる。


「な、なんで手…握って…?」

「…泣かせたみたいだったから…?」


視線を落とすと、握られた方の手に力を入れた。


「研磨が好きです。」

「うん。知ってる。」


「それでクロのところいかないでね。おれ、何言われるかわからない。」と言うと来ていたジャージを脱いで彼女の頭に被せた。


「時間稼いでくるから更衣室いなよ。」


それだけ言うと体育館へ向かって行った彼。
嬉しさのあまり、頬が緩んだ。


-END-
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