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なきむしのつよがり
彼が校内を歩くだけで黄色い声が聞こえてくる。
その声を辿れば、彼が今何処にいるのか分かる。

普段から、その黄色い声を辿って彼を見て、笑顔を向けてくれればホッとしていた。

でも、今は違う。

モテ男の癖にバレーには一途。
毎日部活、唯一休みの月曜日も実は練習してる彼。


及川徹、イケメンな青葉城西のモテ男だ。


「ちょっと待って、名前ちゃん。それは違う。」

「?何が違うの。」

「俺は名前ちゃんのカレシ!そうでしょ?」


以前、そんなこと言われたなぁと思いながら黄色い声を背に逆方向へ向かって歩いていく。

最近、構ってくれない。

忙しいことはわかってるけど…カノジョになったって…他の女のコといる時間の方がよっぽど多いと思う。

すでに3日ほど話していない女に、カノジョだよなんて言うと、どうかしてると思うだろう。

そう、だから、おかしいんだ。


こんなことを考えている時点で、彼の思う壷なのはわかっている。


怒らせて…ヤキモチ妬かせて…で、キスすれば仲直りって。
そうはさせないよ…いざとなれば別れるんだから。


その考えを聞いていたかのように、フワッと身がよく知る香りに包まれる。


ほんのり、他の人の香りもして眉間にしわを寄せた。


「名前ちゃんはっけーん。」

「離れて。他の女のコの匂いがする。」


冷たくそう言われてしまった及川は話すどころかさらに腕に力を込める。


「ヤキモチ。」

「そんなことしてたらキリがない。」

「素直じゃないなぁ〜」


そう言いながら唇を近づけて来る彼を、離れろと言わんばかりに離した。
周りの視線が痛い。


「バカなの?注目浴びてるの気付いて。」

「え?」


ハタっと止まった彼の目があたりを見渡す。
へらっと笑うと「すみません…」と謝った。

その場を逃げるように名前は彼から離れた。


「岩ちゃん…名前ちゃんがなんか怒ってる。」

「知らねぇよ。何かしたんだろ、お前。」


放課後、体育館。
及川は名前が逃げたことを気にしていた。
岩泉は軽く受け流す。

こっちは真剣に悩んでるんだよ、と怒っているが相手にしてくれない。

それにため息をつくと「サーブの練習しよ…」と立ち上がった及川。
彼が出てきただけで黄色い声がどこからともなく聞こえてくる。


「チューすらさせてくれないなんて初めてでどうしよ、俺…等々振られるのかな…」

「お前振られてばっかだな。」

「だってみんな俺をなんだと思ってんのか知んないけど 思ってた感じと違った って口を揃えて振られるんだよ?」


「知らねぇよ。」と言うと岩泉は逃げるように練習へ。
及川はため息を一つついてサーブの練習を開始した。


一方名前は帰宅の用意をしていた。
放課後残って勉強していたのはいいが、集中出来ず帰宅することした。

門の先にたまたまいた岩泉に「あ、苗字。」と名前を呼ばれて立ち止まる。
岩泉の背に、及川の姿。
どうやらロードワークで走り終えた後の様子。

その時ですら見ている女子生徒たちを見てそのまま駅に向かおうとしたがそう簡単にいかなかった。


「名前ちゃん。って…えっ」


見られてしまった。
溜まりに溜まった我慢が限界に、涙となって溢れてきた。

手で顔を隠したが時既に遅し。
及川はとっさに彼女を腕の中に入れた。


「おい、てめぇ…」

「待って。泣いてるんだよね。」


それを聞けば何も言えなくなった岩泉。
周りに数人のファンが見つめている。


「泣いてない。」

「なんでそんなに素直じゃないの?」


そう言われても黙り込む名前に及川は「名前ちゃん、我慢し過ぎたんじゃないかなぁ」と言う。


「徹…」

「妬いたでしょ。知ってるよ。」

「…泣いてない。」

「嘘つかない!泣いてるじゃんか。」


「強がらなくていいんだよ。」と名前の頬に手を添える。
そのまま、ゆっくり唇を近づけたが…


「テメェ…ふざけるのも大概にしろや。」

「いったい!岩ちゃん酷い!名前ちゃんとやっとキスできると思っ…痛いっ痛いってば!」


ゲシゲシと及川を蹴る岩泉。

その及川を見ていた名前は少しスッとした。


-END-
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