3年5組の教室。
窓際で、ぽかぽかと春の陽気を感じて、眠気を誘うその温かさと現代文の授業を行っている先生の声。
ぼーっとする頭で、目の前の席に座る男子の背を見つめる。
ジーッとしているようで…実は寝てたりするんじゃないの?と思い、少し離れたところに座っている夜久の姿を見る。
彼はしっかり起きていた。
やっぱり夜久はしっかりしてるなぁ…
それに比べて…。
そう思い、目の前の背中を見た瞬間、首ががくんと揺れた。
「…黒尾。」
「…ん?」
ちょんちょんと、シャーペンで彼の背をつつく。
顔を少しこちらへ向けたものの、授業中なのでしっかりとまではいかないようだ。
「夜久は頑張ってるよ〜?」
「アイツはすげぇんだよ。俺とは背から違う。」
ニヤリと不敵に笑った黒尾に夜久が鋭い視線を向けた。
「…絶対聞こえてたよ、今の。」
「名前が話しかけてこなけりゃ言わなくて良かった言葉ではあるな。」
「なんてやつ!」
くぅ…これが本当に私の彼氏か?彼氏なのかっ?
ペンケースに入れていた付箋。
そしてなぜか準備していた両面テープ。
くあっと欠伸をする黒尾の背で、名前は付箋に何やら書き込む。
しっかり、誰にでも見えるように油性ペンで書いた。
よし!できた!
あとは粘着が弱いから…
甘い粘着では少し動いただけで落ちてしまうため、両面テープを付箋の上下に付けた。
これが席が後ろで彼氏にできる特権。
そうしてそっと目の前のブレザーに貼った。
よし、バレてない。
見るたび少し、恥ずかしい気持ちになる。
でも、たぶん…黒尾は満更でもないだろう、むしろ喜ぶかもしれない。
「…名前。」
「!!」
放課後、帰宅しようとしたところで、黒尾に腕を思いっきり掴まれた。
目を見開く彼女に、黒尾は「ちょっと来い。」とぐいぐい引っ張りそのまま廊下へ放り出される。
「…コレ。」
「あ。」
「嬉しいんだけど…手ぇ出してくださいって言ってる?」
あ、ヤバい、逆効果だった。
とこの瞬間に思った名前。
すでに遅い、詰め寄る黒尾から逃げ場はない。
黒尾の持つ紙は、現代文の授業中に書いた付箋
“苗字の彼氏です。手を出さないように”の文字。
「嬉しいでしょ〜?」
「そうだな。名前が手、出していいよって言うならすげぇ喜ぶわ。」
不敵に笑う黒尾の手が、顔に伸びてくる。
覚悟すべきかと思われたその時、
「何やってんだよ!部活行くぞ!」
「…やっくん、空気読んで。」
「空気を読んで注意してやったんだろーが。」
呆れる夜久の顔で、視界が広くなった黒尾が見た光景。
男女問わず注目を浴びている。
「…お前、俺が部活終わるまで教室で待ってろ。」
「え?!」
「いいな?」
「…。」
この後待ち受けている恐ろしい天罰に名前は「黒尾にするんじゃなかった…」と思った。
-END-
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