朝練を終えた天童がだるだると肩の力を抜きながら下足ロッカーに来た。
その背には同じくバレー部の面々が勢ぞろいしている。
天童が「きょう何であんなに怒られたんだろ?鍛治くん機嫌悪かったよね?」と隣にいる瀬見を見ながらロッカーを開けた。
瀬見は「お前がシューティングスターなんて馬鹿なことするからだろ。」と呆れた顔を向ける。
「だって俺の必殺技見せたいじゃん!」
「ダレに。」
「みんなにダヨ〜他に誰がいるって言うのさ〜?」
「苗字とか。」
「あ、そうだ。名前ちゃんに見せないとね。」
ロッカーを開けたままガッツポーズをしたり、身体を右に曲げて目を細めたり…かと思えば思いついたように視線を天井へ向けて目を瞑ってイメージトレーニングを始めたり、忙しい天童の姿。
「はよ来い。天童。」
「あ、待って待って獅音くん!」
瀬見が背後を通り過ぎ教室へ向かう。
大平が振り返り天童を呼んだ。
あたふたと履き替えると、視界に白いものが見えた。
「ン?」
天童は大きな目をぱちっと一度閉じて、開く。
「やっぱり、あるね。」
「?なに言ってるんだ?早く行くぞ。」
「んー」
本物の、これは…
天童はそれを手にするとロッカーを閉めた。
裏表…クルクル見てみるが名前がない。
宛名はしっかり天童覚と書かれている。
大平が天童の手元を見るなり「なんだそれ?」と問いかけた。
「獅音くーん。見てわからないの?ラブレター、デショ?」
「外装だけではなんともいえないだろ?中、見て見たらわかるんじゃないか?」
大平は冷静に天童にそう言うと先を歩いて行く。
天童は歩きながら封筒を開けると中の紙を開いた。
読んだ直後、眉間にシワなんてものじゃない。
推測が外れた時のようなものすごい顔をしていた。
“ラブレターだと思った?ざんねーん。”
「…え、どした。天童。」
「獅音くん…俺は今殺気に満ちてる?」
「うーん…殺気というより…機嫌が悪いな。」
ラブレターだと思ったそれをグシャと握りしめた。
「中身、どだった?」
「もうサイッアクだね!朝から気分良くさせてから下げるなんて…絶対許さねぇ…」
不穏な空気を醸し出す天童に苦笑いする大平。
教室にどんより暗黒オーラを纏った天童が入るなり、クラスメイトはひそひそと話し出した。
そんなことどうでもいい。
今はコレを書いた本人に用がある。
「花ちゃーん?ちょっと。」
「あ、ラブレター貰ったんだって?モテモテじゃーん天童覚。」
ニコニコニコニコと笑みを向ける名前の友人の花に握りしめたそれを机に置く。
座っている花を見下すと皮肉っぽく言う。
「そう俺モテちゃって朝からテンション上がったのに…ドン底に突き落とされたよねー…って、なに、コレ。」
お調子者天童から、トーンが急に下がると視線は明らかに不機嫌な目をしている。
そしてピラっと手紙を見せた。
花は怯むことなく「あんた全部暴露したわね。」と目を細めた。
「ほらやっぱりコイツ浮気する可能性あるって!」
「え、うーん…」
名前に声をかけた花に天童が目をパチパチさせた。
「エ。名前ちゃんもまさか…グル?」
「グルじゃないよ。花が天童のこと疑って試したんだけど…殆どイタズラに過ぎない。」
「イタズラにもほどがあるから!」
目を見開いて大きな声を出す天童。
「ホントに名前一筋なんかね。」
そう問いかける花。
未だに彼女は疑いの目を天童に向けている。
天童は目を細め、花の目を見て言った。
「俺が今までより圧倒的に違うお付き合いの仕方をしてるんだよ?」
「…何いうつもりよ。」
「それはねー…」
ふふふと幸せそうに笑う天童。
「大切にしてるとこだよ。」
花は尽かさず「元カノらに謝れお前。」と怒りの含んだ声色で言う。
「俺が悪いんじゃないヨ?大切にしようと思わせないヤツが悪い。」
「「…めっちゃゲスい発言。」」
花が言う分にはいつも通りだが、その言葉が名前の口からも放たれる。
天童が「え?!もしかして嫌いなった?名前ちゃんの前ではあまり言わないようにはしてるんだけど…」と遠い目をする。
「でも名前は天童に 大切にしようと思わせた ってことでしょ?…何したの?」
「え…別に…」
「それは俺だけが知ってればいーんダヨ?」
コテンと首をかしげた天童。
名前は口角を上げた。
「結論、天童はゲスい男だった。」
「それ違うよね。一途な男だったでしょ?!」
「それはまだ以後検討します。」
「…いつになっても花ちゃんは認めてくれない気がする。」
名前はそんな二人を見て笑った。
-END-
back to top