放課後、普段通り行われる部活。
体育館にジャージを持って入れば、「名前」と黒尾に手招きをされる。
彼女は首を傾げ、「なんですか?」と黒尾に歩み寄る。
目の前の彼がニコニコした顔で「ちょっとやりたいことあんだわ。」と言う。
首を再び傾げた名前に「その名も、“とりかえっこ大作戦”だ。」と黒尾はドヤ顔で言った。
欠伸をしながら体育館に姿を見せた研磨。
部員たちはいつも通り、各々ボールを持って練習していたり、喋って居たり…
そんなに変な様子のない体育館の中へトボトボとダルそうに入っていく研磨だが、真っ先に向かったのは黒尾の元。
知らない顔をしていた名前もそれには驚く。
「ねぇ。」
「ん?どうした?」
役者、黒尾は普段通りの対応を見せる。
名前はドキドキしながら二人の様子を見守る。
じーっと研磨に見つめられては、役者の黒尾も汗が流れてくる。
「クロ、俺のジャージ知らない?」
「!!」
ギクッとしたのは名前だ。
しかし、黒尾は役者である自分を崩さない。
「あぁ。あそこにあるやつ、お前の?」と体育館の端に名前が丁寧に畳んで置いておいたジャージがある。
「そうかも…」
それを見た研磨は畳まれたジャージの元へ歩み寄っていく。
その様子をドキドキしながら見ている名前を見て、黒尾が「名前〜」と彼女を呼んだ。
来い来いと手招きする黒尾の元へ行けば、彼は「お前気にし過ぎだ。バレるだろーが。」と呆れ口調で言われてしまえば、「はい。」と言うしかなく、それから名前は気にしないように努めた。
しかし…
「…うぅ…無理。」
ジャージ無しでは寒いこの時期、12月だ。
さすがに部員たちと違ってマネージャーの仕事をする名前にとって戦いは水道水。そしてそれは体育館の外にある。
外は冬、寒い。
ジャージは必須だ。
でも、着ていると自分の物ではない柔軟剤の香りがして落ち着かない。
明らかに、他人の物だとわかる。
「…でも、何か…」
ぎゅって抱きしめられた時みたいな感じがずっとしてる…。
「…って、変態か。」と自分でツッコみ、気を引き締めて体育館へ戻る。
「名前。」
「ん?」
体育館へ戻ったと同時に、休憩中だったらしい研磨に声をかけられる。
研磨はだらしなく手招きをし、身を寄せた名前に耳打ちをする。
名前は「な、なんで…」と聞けば、研磨は首を傾げて「小さいし…匂いが名前の匂いだ。と思って。」と平然と答える。
視線を黒尾へ向ければ、黒尾は気づいた。
「ば…っ」
「ば?」
「バレました…」
「おぉ〜?思ったより早かったじゃねぇか。」と研磨の頭を乱暴に撫でる黒尾。
研磨は「着た時から、わかってたけど…名前のだったら、名前のがおれのってことだから…匂いでわかるかな、と思って。さっき確認した。」と言う。
名前は「あの手招きはそのため!」と目を少し見開いた。
「で、なんでこんなことしたの?」
「お前が名前の彼シャツならぬ、“彼ジャージ”に萌えるかなと思って。」
「萌えないし。」
相変わらずジャージを着たままタオルを手にする研磨。
名前はきょとんとその姿を見つめる。
「でも…着てていいよ。」
「え?」
「おれもきょう借りとく。」
「誰かさんがとりかえっこ大作戦してるらしいしね。」と不敵に笑う研磨に、黒尾は身を引いた。
「な、何で知ってる!」
「…風の噂。」
「嘘つくな!」
コートへ戻っていった研磨の背を追う黒尾。
名前はジャージのファスナーを締めて微笑んだ。
-END-
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