3年5組の教室で、夜久が机上に予習用のノートを開き必死に取り掛かっている。
その隣ではスポーツ雑誌を読んでいる黒尾の姿。
そんな対照的な二人を見ながら、名前は首を傾げた。
「黒尾ー」
名前を呼べば彼は視線を上げてから、下へ下ろす。
名前のスカートの裾を見てから、「お前さ、もうちょいスカート短くしてみたら?」と言った。
夜久がその言葉を聞いて眉間に皺を寄せる。
名前は思う。
その言葉には、一体どういう意味が込められているのかわからないが、最低限コレだけは絶対間違っていないだろう、と。
「どスケベ。」
「そのスケベな彼氏を持ってる今の気持ちは?」
「有り得ない気持ち。」
冷たい視線を向ける名前を見た夜久が黒尾に「お前、彼女にそういうこと良く言えるな。」と呆れ口調で言った。
黒尾は名前のスカートの裾に再び視線を向け「だってさ〜長くね?このスカートと太股の絶対領域が男のロマンだろ。」と指さす。
サッと手で太股を隠す名前。
夜久はため息をついた。
「俺なら彼女がスカート短くしてたら下ろせって言うけどな。」
その言葉に黒尾はハァ?という顔をするが、彼女の名前は違った。
「さすがやっくん!イケメン!」
「だって嫌だろ?普段から短くしてたんなら構わねぇけど…他の男も見たことない姿見せるのって…俺だけにして欲しいって思う。
…黒尾は心が広いのかもだけどな。」
皮肉っぽく、わざと言って予習を終わらせてしまったのか、教室を出て行った夜久の背を見送り、視線を黒尾へ向けた名前。
「短く、しようか?」
意地悪っぽく、そう言えば、彼は「いや、いい。」と読んでいた雑誌に視線を移した。
「拗ねた?」
「拗ねてねぇよ。」
「ただ、夜久みてぇな考え方はしたことが無かったな…と思って。」と考えを改めたらしい黒尾は口角を上げた。
「さすがモテる男は違うなぁ〜」
「鉄朗。」
「……ん?」
ページを捲ろうと指にかけられた雑誌のページが中途半端な所で止まり、ペラっとだらしなく片側に落ちる。
二人の間に沈黙が流れた。
黒尾の目は、少し見開いて驚いた、という感じ。
名前はその反応を見て、笑う。
「え…今なまえ…」
「ふふっ呼んでみただけ!」
「黒尾可哀想だったから…スカート短くして貰えなくなっちゃったし。だから何かしてあげたいなぁと思って。」とニコニコする彼女。
黒尾はふっと柔らかく笑った。
「じゃあ次からはそれで。」
「えーやだよ。可愛い悪戯なんだから。」
「自分で可愛い言うな。」
-END-
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