「…。」
「覚、何してるんだ。」
ジーッと下足ロッカーの前で立ち尽くし、何かを見つめている様子の天童に、大平が声をかける。
ビクリともしないその身に近づく。
天童は手元にある『これは、不幸の手紙です。』と自己主張している封筒をじっと見ていた。
眉間に皺を寄せ、まだ使っていない思考を張り巡らせる。
不幸の手紙だってことを分かってて開けるヤツがいるのかっていう検証か何かかな?
それに俺が抜擢されちゃったってやつ?
人気者はつらいねぇー!
だってそうじゃなかったら、なんで俺なんだってなるよね?
これを仕掛けた人は、俺をバカにしてる?
いや、それとも…逆カナ〜?
不幸の手紙と分かってて開ける、“くだらねぇことすんじゃねーよ”っていう勇気があるかどーかの検証?
っつか…
「何にせよ堂々とし過ぎ。」
「開けるのか?」
いつの間にか参戦していた瀬見にそう問いかけられ、答えに迷う天童。
「英太くんなら開けないよね。」
「なんで前提?」
「開ける勇気ないデショ?」
「そんな風に言われると開けたくなるよな。」
天童に言われるとその考えを上回りたくなるのは何故かと瀬見はいつも思う。
挑発に乗せるのが上手いのか、天童は…と。
恐らく本人は素直な予想を口にしたまでだ。
「じゃあ開けよう!」
「軽っ!待て。実際、それが本当に不幸の手紙だったらどーすんだよ。」
「英太くんにあげる。」
「いらねぇよ…って、そうじゃなくて…」
「瀬見は、覚が不幸になった時のことを言ってるんだろ?」
「そうだ。」
大平のサポートあって、天童にやっと瀬見の言いたいことが伝わる。
しかし天童はキョトンとして首をかしげた。
「ねぇ、そもそもさ?不幸な事って、何。」
「幸せじゃないことだろ?」
「…苗字が居なくなるとか。」
「!!」
目をぎょっと見開いた天童と瀬見。
瀬見は隣に立つ大平に「それ、究極だな。」と言った後、視線を天童へ移し「そうなったらお前どうすんの?」と問いかけたが…
「はっ?いねぇ…」
「いつの間に…」
目の前にいたはずの天童が忽然と姿を消した。
「名前ちゃーん!」
バターンと盛大に開かれた教室の扉。
よく知る顔ぶれが驚いた顔で天童を見る。
そんなこと気にせずただ1人の元へ駆け寄ると先ほど話題となった手紙を彼女に渡した。
「見てよッコレ!俺のロッカーの中に入ってたヤツ!」
無言でその手紙を手にした名前。
「これは不幸の手紙です…へぇ?」
「さっき英太くんに、あ、英太くんってセミセミね。」
言い換えてもわからない人にはわからない。
そう思いながらも名前は「うん。」と天童の話に耳を傾ける。
「これが本当に不幸の手紙だったらどーすんだって言われて…不幸ってさ、よく分からないじゃん?何を基準にして不幸なのか…俺だったらスタメン外されちゃったりとかかな…とか考えてたんだけど…獅音くんがさー」
「名前ちゃんが居なくなったら俺にとって不幸なんじゃないかって。」と喋り続ける天童の話に耳を傾けながら手元にあるソレに名前は興味津々…ビリッと封を開けた。
「ホントそうだと思ったんダヨネ!」と視線を彼女へ落とした瞬間、彼女は既に中の紙を開いて見ているではないか。
「って…アーッ!!」
「な、なにっ」
彼女の手元からその手紙をぶん取った天童。
名前は大声に驚いて顔を引き攣らせた。
「み、みた?」
「うん。」
「…俺の命が危機になった。」
「え?」
名前は首を傾げ、項垂れる天童の髪を引っ張る。
「天童は面白いよね。」
「名前ちゃーん…俺、真剣なんだよ?」
「真剣になるのは私のことだけにしたら?」
「……。」
柔らかい微笑みと共に、天童の耳に入ってきた言葉に固まる。
「ってのは冗談で…」
「俺いつも名前ちゃんにはホンキだよ?」
「じゃあ不幸の手紙なんかにホンキで悩まされてないでもっと他の事で悩んだら?」
「名前ちゃん今日どしたの?」
「それはこっちのセリフ。」
「エ?」
ため息をつく彼女に首を傾げる天童。
「世の中 これは不幸の手紙です。 が存在するのは誰かが作ったものだけ。」
「そりゃ…そうだね?」
会話が繰り広げられている教室内のクラスメイトたちは2人の様子を見て「なんか、説教されてるみたい…天童。」と思っていた。
「なら何も起こらないことくらいわかるでしょ?」
「だからって開けたの?」
「うん。開けた。」
「名前ちゃんってたまに危ないこと平然とするよね。」
「お前にだけは言われたくない」とクラスメイトは思う。
いつも怖い教師に授業中にも関わらず喋りかける姿と言ったら恐ろしいことほか無い。
「しかし誰がこんなことしたんだろーねぇ。」
「天童と仲良い人じゃない?」
「だれ?」
「わからないけど…」
不幸の手紙を送った人は、未だに誰かわかってはいない…。
-END-
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