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まだ、ほんのりやさしい
付き合って、1ケ月。
研磨は、いつも私と接するとき、どこかよそよそしい。

そんな姿を見ると、私もよそよそしくなってしまう。


「研磨。」


同じクラスの彼に声をかけた。
チラッと視線を上げてから、すぐ逸らす。

彼の癖のようだ。


「なに?」

「きょう、一緒に帰れる?」

「部活だから…」


そっと視線を名前へ向けると、申し訳ないけど…と瞳が言っているように見えた。


「うん…それはわかってる。」

「…暗くなる前に帰りなよ。」


名前が何を言おうとしているのか察した研磨は、視線を彼女とは反対へ向けて呟くように言い放つ。

その言葉を聞いた彼女は「はい…」と素直に引き下がった。

席を立つと、自分の席へ帰っていった彼女の背をみながら、研磨は考えていた。


「クロ…」

「ん?」


部活を終えた帰路で、いつも通り幼馴染み二人揃って帰っていたところ、研磨が黒尾に声をかけた。


「クロは、付き合わないの?」

「付き合おうと思えば、誰だって付き合えるってわけでもねぇだろ?」


「そうだけど…」と言葉を濁す研磨に、黒尾が問いかけた。


「悩んでんのか。」


「うん…」と頷く研磨。


「付き合ったけど…部活あるし…って、逃げてるみたいで。」

「へぇ〜お前もちゃんと好きなんだな。」

「どういうこと?」


研磨に睨まれ、「すまん。」とすぐ謝る黒尾。


「まぁ、そうなるわな…それを理解した上で付き合ってくれって言われたんじゃねぇのか。」

「そうだと、思うんだけど…」

「?」


研磨のハッキリしない言葉に不思議そうな顔をする黒尾。


「どうしたら、挽回できるかなって。」


黒尾を見上げる研磨。
口角を上げた黒尾は口を開いた。


朝、登校してきた名前が大きな欠伸をして席についた。
その時、目の前に影ができた。


見上げると、研磨の姿があった。


「…おはよ…。」

「おはよ。」


朝練を終えてからは、いつも時間がなくて全く言葉を交わすことがなかったため、驚きを隠せない名前が目を丸くして研磨を見上げている。

その視線から逃げるように研磨が口を開いた。

きのう、黒尾に言われた言葉を言う。


“一緒に帰ればいいじゃねぇか。明日。”


「今日、部活なくなったから…」

「…え、そうなんだ。」


名前は研磨の報告に、どう反応しようか迷っていた。
でも、研磨はその先を考えていた。


「一緒に、帰る?」


視線は合わないけれど、彼女に向けられたお誘いの言葉。


名前は顔を赤くして、俯いた。


「うん。帰る。」


そして、研磨には見られないように笑っていた。


本当は、ちゃんと気にしてくれていたんだ。と、彼のやさしさを嬉しく思った。

-END-
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