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好きじゃ足らないくらい好き
「名前。」

「ん?」


部活を終え、ジャージ姿で寒そうに出てきたところを研磨に声をかけられ、振り返る。
研磨は体育館の中から出てくるところ、名前に近づけば「きょう、一緒に帰る?」と問いかけた。


「えっいいの?」

「え…うん。」


普段、いつも黒尾と帰るため、名前は一人で帰宅をしていたが、久しぶりに一緒に帰れるとなると彼女の表情も次第に明るくなっていく。


「やったぁ!」

「そんなに喜ぶこと?」

「何事?」


げんなりする研磨の背後から夜久が出てきた。
どうやら名前の声を聞いて出てきたようだ。

研磨が言うより前に名前が「夜久先輩夜久先輩!聞いてくださいっ」と夜久に詰め寄る。
身を引く夜久の表情は一変、強張っていた。


「な、なに。これ、苗字?」

「うん…喜びすぎなんだけど…止めてほしい。」

「何言ったの?」

「研磨が、一緒に帰ってくれるって。」


名前の言葉を聞いて夜久は「あぁ〜なるほど。だからお前浮かれてんの?」とルンルンな名前に苦笑いをする。

研磨はため息をついた。


「やめて。」

「久しぶりなんだからいいじゃん。」


恥ずかしいのか研磨は彼女にあまり声出して言わないでと止めにかかるも、彼女はやめる気なし。
まさかここまで一緒に帰ることに喜ぶなんて考えてもいなかったのでため息が出る。

黙って二人の様子を見ていた夜久が「苗字はホントに研磨好きだなぁ〜」と皮肉っぽく言うも、彼女は「好きです、大好きです。もう愛してます!」と叫ぶ。

研磨は「もう嫌だ。」と溜らずそのまま部室へ戻っていく。


「どんだけ好きなんだよ…」

「少なくとも、好きでは収まりきらないくらい好きです!」

「…へぇ〜。」


それって、つまり、どれくらい?と夜久は自分自身に問いかける。
もう、目の前の浮かれまくっている彼女に聞いたって、まともな答えが返ってくると思えなかった。


-END-
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