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瞳だけでも、振り向いて
とても、可愛い人がいる。

同じ学年で、どこのクラスかはわからないけれど…
いつも、女の子と楽しそうに話していて、笑顔がすごく可愛いんだ。


「その子の名前知ってんの?」

「いえ、知りません。」


部室で先輩である夜久さんに相談してみた。
夜久さんはモテる。

背は小さいけど、うちのリベロだしとても頼れる先輩だ。
相談する価値はあるはず!


「じゃあまず名前を知ることからだな。」

「どうやってっすか?」


制服のシャツを羽織るとボタンを留めていく夜久に問いかけたリエーフ。


「それは自分で考えんだよ。」

「えぇ…夜久さんなら何か教えてくれると思ったのにー」

「だから名前を知ってこい、話はそれからだ。」


ガクッと項垂れるリエーフ。
でも、確かに名前すら知らないのに友達になろうなんて言えない。


「わかりました。頑張ります!」

「お、おう。」


少し心配そうに見つめる夜久。
しかし、本人はやる気で漲っていた。

翌日、まずはクラスを知ろうと教室を見て回る。

ちらちらとリエーフを見る生徒たちを他所に本人は他クラスを物色するように見る。


「いねぇなぁ…おかしい。」


1年生のハズだった。
しかし、今思い返せば、なぜ自分は1年生だと思ったのだろうか。

学年にすら、確証がないことがわかった。


その確証通り、1年にいないことがわかった。


「研磨さん、研磨さん。研磨さんのクラスにいつも女の子と喋って楽しそうにしてる人います?」


部室で着替えていた研磨の隣にいき、リエーフは2年生に聞き込み調査を開始した。
研磨は「そんな人、いくらでもいるけど。」と呟く。

リエーフの何も知らないことがそこで主張されてしまう。


こうなったら、自ら動くしか…。


そのまた翌日、2年生の校舎へ来たリエーフはちらちらと視線を浴びながら2年生のクラスを物色していく。


その時だった。


向かいから歩いてくる、女子たちの姿の中に、リエーフの探し求めていた人がいた。


声をかけようか、いや、でも何も知らないままだ。


そんな葛藤の中、リエーフの隣を通り過ぎていく3人の女子たちから聞こえてきた声。


『名前はいつも寝坊するじゃん。』

「えー…だって眠いし…」


そう言って教室に入って行った3人。
クラスは2年2組。


「夜久さん!2年2組の名前さんです!」


部室で叫ぶリエーフ。
嬉しさが顔と体から醸し出されている彼を苦笑いで見つめる。


「先輩だったのかよ…。」

「はい!先輩でした!」

「じゃあ、声かけてみろ。」


「え。」と周りの部員たちが一斉に夜久とリエーフを見る。
少々ハードルが上がりすぎなのでは…とみなが思った。

しかし、リエーフは夜久の言葉を信じ切っている。


「はい!」


笑顔で任せてください!と言ったリエーフだったが、それからというもの中々彼女と会うことがなく…


「もう、俺、だめかもしれません…」

「まだ何もしてねぇじゃねぇか…」


夜久に慰められながらも項垂れるリエーフ。
そんな彼を見た黒尾が「リエーフ。息抜きに買い出しでも行ってこい。」と良いように使いに出された。


「黒尾さんは俺をなんだと思ってんすかね…」

「…知らないよ。ってか、なんで俺まで…」


隣には、ついでに駆り出された研磨が不機嫌な面持ちで歩いていた。


門を出たところで前に、今まで会えなかった彼女を発見したリエーフ。


「え、リエーフ?そっちじゃない…」


行先とは逆へ歩いていくリエーフを止めに入った研磨だが時はすでに遅し。


「名前さん!」


一人で帰っていた彼女の名前を呼ぶと、その人が振り返った。


一瞬でもいいんです。


「俺、1年の灰羽リエーフっていいます!」


あなたの瞳に


「友達になってください!」


移りたくて。



-END-

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