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これでも好きといえますか
「夜久ー!」


遠くから夜久を呼ぶ声がした。
本人と黒尾が振り返ればもう、呼んだ本人は夜久の首に腕を回し無邪気な笑顔を見せていた。


「っ…く、苦しっ…!」

「おーい、苗字。やめたれ。愛する夜久くんが息絶えるぞ。」


黒尾がいつものようにニヤニヤしながら言うだけ言って、彼女を夜久の身からは離そうとしない。
これが、いつもの光景だ。


「えっやだ!」


黒尾の言葉を聞いて、瞬時に夜久の気道を解放した彼女。
夜久は胸元を抑えてむせている。


「ご、ごめん…」

「お前な…いーかげんに抱き着くのやめろ。」

「うぅ…だって夜久、逃げるんだもん…」

「それは間違いなくお前がそーやって抱きついてくるからだろ。」


しゅんとする名前に話をつける夜久。
そんな二人を置いて先に帰ってしまった黒尾。

これが、彼女たちの普段通りである。


しかし、ある日…


「…最近、苗字こねぇな?」


黒尾が発した言葉に、夜久も「あー、確かに。」と考える。


「さすがに自重したのか?」

「…あれだけ言っても無駄だったアイツが?」


呆れ果てた顔をして言う夜久に、「最近会ってんの?」と問いかける黒尾。


「そいや…テスト終わってから会ってない気がすんな…」


テストが終わったのは2週間前のことだ。
部活も忙しく、彼女から会いに来なければこれくらい普通のことだろうと夜久は呑気に考えていたが、流石に不安になる。


「…お前に飽きたんじゃね?」

「もういっぺん言ってみ?」


黒尾に張り付けたような笑顔を見せる夜久。
ふっと笑うと「じょーだんだよ。」と口角を上げた。


とは言っても、やはり気になった夜久は、彼女のクラスを覗いた。


一人、机に向かって何かをしている彼女の姿を見つけ、声をかけた。
すると彼女は目をぎょっとさせ、「や、夜久!」と慌てて手元に開いていたノートや教科書を閉じる。

その行動に、ふと疑問に思った夜久はジーッと彼女の顔を見た。

目が、泳ぐ。


「なんで、勉強してんの?」

「う…これは、その…」


「えっと…」と目をさらに泳がせる彼女。
黙って、素直に話してくれるまで待ってみる。


ぎゅっと、意を決したように目を瞑った彼女が言った。


「…夜久に、嫌われたくなくて…」

「は?話が見えねぇんだけど…?」


なんで、俺に嫌われるという話が出てくるんだ?


机の中から、一枚のプリントが出てくる。
それを机の上に出した彼女がチラッと俺を見上げて言った。


「これでも…私のこと、好きでいてくれる?」


開かれたプリントは、最近行われたばかりのテストの答案用紙だ。
見事に書かれた答えが赤ペンで跳ね除けられている。


点数は、32点。


「…赤点じゃん。」


いつもは、成績上位にいる彼女。
見た目バカっぽいくせに、実はできる奴。


でも、付き合ってから彼女の赤点を初めてみた。


「珍しいな。」


そうつぶやくと、彼女は目に涙を浮かべていた。
驚いた俺は慌てる。


「な、なにっなんで泣いてんの?」

「うぅ…だって、夜久の彼女として赤点なんて採ってしまったから…顔向けできなくて…嫌われると思って…」


涙を、ぽろぽろ零す彼女。

ふっと、笑ってやった。


「ばか。俺は赤点採らないお前を好きになったんじゃねぇーんだよ。」

「…夜久…。」


微笑んで見せた夜久の腰に椅子に座ったまま抱き着く名前。
そっと、彼も腕を回した。


-END-
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