最近、俺には余裕がない。
「黒尾。」
「ん?」
主将の黒尾と、マネージャーの名前が二人で何かを話している。
仕方のないことだと、わかってはいる。
でも、部員たちは知らない。
俺と名前が付き合ってるということ。
秘密にしておこうと言ったのは、お互いだった。
その分、苦しいことも、嬉しいこともあるけど…それでもいいと承諾した上での関係だ。
「…。」
「夜久。俺の顔に何かついてんのか?」
背の高い黒尾を見上げて睨めば、黒尾は顔を引き攣らせる。
フイッと逸らせば「別になんもついてねぇよ。」と乱雑に言い放てば、黒尾はニヤニヤし始める。
「…名前と話してたから妬いてんのか?」
「…うるせぇ。」
そう言い返すことで、精一杯だった。
いっそ、楽になるなら、“俺の彼女だ”と言ってやりたくなった。
でも、それは…
「…男じゃねぇよな。」
天を仰ぎみれば、そう呟いた。
彼女は、至って普通で…余裕がないのは、俺だけ。
それが、さらに俺の余裕を奪っていく。
「名前。」
真っ暗な外。
部室に入ろうとした彼女の腕を掴めばその身は簡単に俺の腕の中に入った。
「…夜久?どうしたの?」
不思議そうに、問いかける彼女には、今の俺の心情なんてわからない。
彼女の唇を指でなぞれば、身を固くする。
啄むように唇を塞げば、あとは彼女を堪能するだけ。
唇を離せば、彼女の口から吐息が零れた。
視線が、合う。
「…夜久、余裕のない顔してるね。」
「…誰のせいだと思ってんだよ。」
余裕っぽく、笑みを見せる彼女。
少しだけ、悔しい。
-END-
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