いつも、見てる光景がある。
3年5組、黒尾鉄朗。
私の好きな人。
同じクラスで、最近言葉をよく交わすようになった。
でも、彼はモテる。
中庭で昼食を後輩と食べている様子をよく見る。
彼はバレー部で主将をしていて、どうやら後輩からよく慕われているようだ。
放課後、彼が部活をしている間、私は教室で勉強をしていつも見ている光景を見てから帰る。
部活を終えた頃、私も片づけをして、教室から門へ向かう彼を見る。
それが、私の僅かな楽しみ。
この気持ちを伝える気はないし…
おそらく、伝えると彼が困ってしまう。
だから、気持ちは胸に閉まっておく。
でも、この光景だけは…見させてほしい。
私の我儘だ。
そんな日が、続いていたある日。
教室で彼とぶつかった。
「あぁ…ごめん。」
「いや、すまねぇ。」
ただぶつかっただけだというのに「ケガしたりしてねぇか?」と心配をする。
ふっと笑ってしまった。
「大げさ。」
「大げさじゃねぇよ。」
くすくす笑う彼女を何とも言えない顔で見る黒尾。
そんな彼の表情が、何かを思い出したように動いた。
「あ。そいや、苗字さ…」
「黒尾ー!」
何か、言いかけた彼。
でも、先生に呼ばれた彼は「わりぃ、また今度。」とだけ言って去っていった。
何を言おうとしたのだろうか。
わからないが、あまり気にはしていなかった。
それからまた数週間経った。
すっかり忘れていた、彼の言葉の続き。
「あれ…寝てた。」
放課後、眠っていたらしい身を起こすと教室の時計を確認する。
もうすぐバレー部が終わる時間だ…。
眠いながら片づけをしていると、ノートにマジックで書かれた文字を見つけてギョッとした。
自分が寝ぼけて書いたのだろうか、と慌てた。
しかし、その文字は…自分のものではなかった。
「…黒尾。」
そのノートをぎゅっと抱きしめた。
“いつも遅くまでご苦労さん”
恐らく、何かを教室へ取りに来たとき…私が寝ているのを見て書いたものだろう。
いつも遅くまで…という単語に、まさかバレていたとは、と驚いた。
「…何で寝てたんだ、自分。」
せっかくのチャンスを…。
でも、ノートにはしっかり君がいた証が残されていた。
-END-
back to top