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嬉しいのならそう言えば?
森然高校長期合宿。
朝から夜までみっちり練習試合を重ね、ご飯までの時間でさえ自主練習をする部員たち。

晩御飯だって言いに行かなければ、とパタパタと体育館を回る。


第一体育館には夜久と芝山、海がいた。


「あ、夜久先輩たち…晩御飯です。」

「おう。あ、名前さ、リエーフ見なかったか?」

「見てませんね…ほかの体育館には今から行くんで、居たら探してたって伝えますか?」

「いや…かなり怒ってたって言ってやって。」

「あ…はい。」


さては、リエーフ、逃げたな?


夜久先輩がかなり恐ろしい顔をしていたことは黙っておくことにしよう。

次は第三体育館に行くか…。


「リエーフ!ボール見てから跳べっつってんだろ!リードブロック!!」

「…うわぁ。」


黒尾と、夜久が怒っていたと知らせるべき相手であるリエーフと、梟谷の主将、木兎とそのセッターの赤葦。

そして、烏野の月島と日向がいる。


黒尾の声が体育館に響き渡る。
第三体育館の中は、異様な熱を感じた。


そろっと覗き見て、タイミングを伺う。


「あぁ!!名前ちゃーん!」

「え!」


ボールが落ちたところで、木兎に気づかれた名前。
名前はボールを追っていたため、避けるのが遅れてそのままがばりと抱きしめられた。

赤葦がその背を見つめてから、そっと黒尾の顔を伺う。
リエーフはとっくにその表情に気づいており何も声をかけられない。


「おい、木兎くんよ。」

「あ?なんだよ…って…」

「あ、く、黒尾先輩っ」


黒尾に肩を捕まれ、振り返った木兎は顔を真っ青にした。
名前も力の抜けきった木兎の腕から身を離し慌てて止めに入る。


「おい、名前。」

「は、はい!」


ジロリと鋭い視線が向けられ背筋が伸びる。


「気安く触られてんじゃねぇ。」

「…ごめんなさい…」

「待て!今のは俺が悪い!だから名前ちゃんを怒んな!」


名前の前に立ち、両手を広げる木兎の姿を見て、黒尾が苦笑いをする。


「いや、怒ってねぇけど…なんかムカつくなお前。」


「俺の役目だろ、そこのポジション。」と先ほどの剣幕はどこへやら。
いつもの二人に戻る。


おそらく木兎のおかげだろう、と名前はチラッと視線を感じた方へ視線を向ける。
赤葦が「ごめん。」と手を立てていた。
ニコッと笑顔を向け「大丈夫だよ。」と返事をしておいた。


「よっしゃー!!名前ちゃん来たしもう一本行くぞー!赤葦!」

「え…いや、名前来たんですから、御飯ですよ。」

「えっ?!そうなの?!見に来たんじゃねぇの?!」


やる気を出させて申し訳ないが、赤葦の言葉通りだ。
名前は振り返った木兎に「すみません。」と苦笑いをした。


リエーフに夜久さんが怒っていたことを伝えると、黒尾が「やっぱりお前逃げてきたのか。」と暗黒微笑を浮かべている。

リエーフがどうしようかと迷う間もなく、食堂へ向かっている夜久に捕まった。


「てんめぇ、こんなところで何してんだ?ん?」

「あ、いえ…ブロックの練習を…」

「音駒でレギュラー入ってたかったらレシーブ完璧にできるようにしろって言ってんだろーが!!」


「…名前、お前はこっちだ。」

「え?」


リエーフと夜久のいざこざを見ていた名前の腕を食堂とは反対へ向かって歩き出した黒尾に引っ張られる。


おそらく…先ほどの流されたかのように見えた一件だろうな、と名前は身を構えた。

誰もいない体育館の横。
187cmの黒尾を見上げる名前。

怖い、ただ見られてるだけでも…至近距離では怖い彼氏である。


でも、二人っきりになるといつもしっかり部員たちを纏めている主将とは違った面々を見せる。


「名前。」

「…はい。」


何も言われなくても、わかる。

彼はあの一瞬、他の人に触れられた私が自分のものであることを確認するように重ねるように触れる。


全身を包み込まれてしまえば、一瞬だ。


「キスさせて…」

「はい…」


柔らかい唇が音を立てて重なると、何度も重ね続けられるそれは次第に深くなる。

ぎゅっと彼の肩を掴んで、つま先立ちしているがこれがかなりしんどい。
でも、もう駄目だと思うときいつも先輩の腕が腰に回って助けられる。


「…必死だな。」


にやりと笑われてしまえば、顔は赤くなるだけ。


何も言い返せないため、いつも彼の胸を軽く叩く。


「嬉しいって、言えばいいのに。」


「素直じゃねぇな。」とぎゅっと再び抱きしめられる。


「…先輩、好きです。」

「好きは言えんのかよ…。」


肩を揺らせて笑っている振動を感じながらにやける顔を隠した。


-END-
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